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【憂国の直言】徴用工問題「肩代わり」解決策受け入れは外交的大敗北   朝鮮近現代史研究所 所長 松木國俊

去る3月16日の岸田首相・尹錫悦大統領会談において、岸田首相は韓国最高裁判所が日本企業に命じた補償金の支払いを韓国政府傘下の財団が「肩代わり」するという韓国側が示した「徴用工問題」解決策を、「両国関係を発展させる」として前向きに評価した。その上で「韓国に謝罪した日本政府の歴史認識を踏襲する」とまで言明している。

 

冗談はやめてほしい。「肩代わり」解決策とは、日本企業が行うべき原告への補償金支払いを、政治的判断によってとりあえず韓国側で立て替えるというものだ。

だが原告らは日本でも同様の裁判を起こしており、日本の最高裁判所は被告となった日本企業に無罪判決を下している。無罪である日本企業が補償金など支払う必要は全くない。岸田首相はそのことをお忘れなのだろうか。

 

ここで日本政府が韓国財団の「肩代わり」支払いを受け入れてしまえば、韓国最高裁判所の有罪判決を認めることになる。日本政府として韓国最高裁判所の有罪判決を日本の最高裁判所の無罪判決より優先するということであり、日本の「主権放棄」以外の何物でもない。

 

さらに今回の解決策が「肩代わり」である以上、尹錫悦大統領がいくら「日本への求償権行使は想定していない」と言っても「求償権」そのものは残る。「求償権の放棄」まで尹錫悦大統領は言及しておらず、韓国最大野党の党首である李在明氏も政権が代われば求償権を行使すると表明している。

 

既に元徴用工と自称している原告の内3人は財団からの補償金受取を拒否する宣言をしており、去る3月24日には三菱重工の特許権差し押さえと現金化を求める裁判が新たに起こされている。韓国政府には裁判所の判決に基づく被告企業の資産現金化を強制的に阻止できる法的根拠がない。韓国政府が原告を説得できる見込みは薄く、「被害者の了解が得られない」という理由で今回の「肩代わり解決策」そのものが撤回され、再び日本企業に謝罪と賠償を求めてくる公算が大である。

 

要するに「肩代わり解決策」自体、実現性が極めて低く、何の解決にも繋がらない可能性が高い。結局後に残るのは「日本政府が韓国最高裁判決を日本の最高裁判決より優先した」という事実。そして「日本政府が過去の謝罪を踏襲することを確約した」という事実のみである。韓国側にとってこれほど好都合なことはなく、日本の外交的大敗北である。

 

そもそも韓国最高裁の判決は「日本統治は不法な植民地支配」という韓国が捻じ曲げた歴史認識に基づいている。この判決を日本が受け入れ謝罪すれば、韓国最高裁の歴史認識までを正当化することになるのだ。

「不法な植民地支配」であるなら、徴用工問題どころか日本統治時代で日本が行ったあらゆる行為が訴訟の対象となり得る。朝鮮総督府が徴収した税金も日本企業が上げた利益も全て「不法な搾取」となり、膨大な額の対日訴訟が発生する可能性がある。しかも韓国の裁判の判決が日本国内にも及ぶとなれば韓国側のやりたい放題となるではないか。

 

にもかかわらず、日本の保守層の中にも「あの韓国が日本に好意を示してくれた」と舞い上がってしまい、「このチャンスを逃すな。日本も譲歩すべきだ」などノー天気なことを言い出す軽薄な輩が大勢いる。彼らは戦後の日教組による自虐教育で刷り込まれた韓国への贖罪意識と、日本人特有の「謝れば許される」という超楽観的外交センスが入り混じって、日本の世論を完全にミスリードしている。これでは韓国が過去の歴史を持ちだして、少しだけ譲ってみせれば、日本は感謝感激して主権まで放り出して謝罪するという情けない図式が定着してしまう恐れがある。日本人の名誉も誇りもあったものではない。進んで韓国の属国になるだけの話なのだ。

 

 尹錫悦大統領が日本に接近して来たのは日本との友好促進が目的ではなく、自国の国益のための冷徹な計算があることを忘れてはならない。朝鮮半島有事となれば、在日米軍の出動なしに北朝鮮から韓国を守ることは不可能である。だが日本の基地からの出撃は日米安保条約に関わる交換公文によって日本政府の事前了解が必要である。

 

文在寅政権のような極端な反日政策をとれば、「北朝鮮のミサイル攻撃を覚悟してまで、日本を嫌う韓国を助ける必要はない」と日本人は誰もが思うだろう。その圧倒的世論を無視して日本政府は果たして日本基地からの出撃を認めるだろうか。北朝鮮があらゆる手段を使って日韓を離反させようとしている意図もまさに在日米軍出動を阻止する為である。リアリストの尹錫悦大統領は、韓国の安全確保のためにのみ日米韓の連携を叫び、日本を利用しようとしているに過ぎないのだ。

 

岸田首相に申し上げる。外交交渉とは譲り合いではなく、国益を確保する為の押し合いである。とことん押し合ってどこかで妥協点を見つける熾烈な戦いであり、そこに誠意や配慮など持ち込めば足元をすくわれる。「譲歩」は相手の「勝利」であり、謝罪は「無条件降伏」以外の何物でもない。外交に遠慮は禁物である。日本政府は日本の主権、そして日本人の名誉と誇りを守るために、堂々と下記を主張して頂きたい。それでこそ韓国側の誤った歴史認識を糺し、歪んだ贖罪意識から日本人を解き放ち、日韓両国の間に対等で正常な関係を築くことができるのだ。

 

①「日韓併合」は国際法に則って日本と大韓帝国が一つの国になったものであり、断じて「不法な植民地支配」ではない。韓国は歴史の真実を歪曲してはならない。

②韓国の最高裁判所の判決は日本の主権を侵すものであり、決して受け入れられない。

③日韓の過去は「日韓基本条約」及び「日韓請求権・経済協力協定」により「完全かつ最終的」に清算済である。徴用工問題も慰安婦問題も全ては韓国の国内問題であり、尹錫悦大統領の責任において韓国内において解決すべきである。

以上