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空にはミサイルを連射、田畑には糞尿弾を投下、それでも飢餓状況に     宮塚コリア研究所代表、宮塚利雄

 今の北朝鮮を知るキーワードは「核・ミサイル開発に狂奔」と、伝えられる「食料難による飢餓情報」である。北朝鮮の朝鮮中央通信は3月10日、金正恩朝鮮労働党総書記が9日に「軍の西部前線で行われた火力訓練を現地視察した」と伝え、少なくとも6発のミサイルが同時に発射される場面の写真も公開した。金正恩はこの視察に金主愛(ジュエ)とされる娘を同行させ話題となったが、朝鮮中央通信は射撃目標が「敵作戦飛行場を想定して設定された」としており、韓国国内の空軍基地などを標的にした「襲撃訓練」だったとみられる。金正恩は現地指導で「実戦を想定した様々な訓練を多角的かつ不断に強化していく」と述べたが、これは米韓が13~23日に大規模合同軍事演習に対抗するための措置であり、さらなるミサイル発射などに踏み切る可能性も指摘されている。北朝鮮はこれに先立つ2月24日に、朝鮮中央通信が北朝鮮軍が23日未明に「戦略巡行ミサイル」発射訓練を実施したと伝えたが、この時の発射は北朝鮮北部の咸鏡北道から日本海に向けて「ファサル(矢)2」と称するミサイル4発を撃ち、「楕円や8の字の軌道を約2時間50分、2千㌔飛行し、標的に命中した」という。さらに北朝鮮は2月20日に弾道ミサイル2発を日本海に発射したが、これは2月18日に大陸間弾道ミサイル(ICBМ)火星15型(射程1万4000㌔)を発射して二日ぶりの挑発であった。

 北朝鮮は昨年、ICBМを含め37回にわたり計73発のミサイル発射を繰り返し、年間最多の挑発を記録したが、今年になっても北朝鮮が相次いでミサイルを発射する背景には、今月予定されている米韓軍事演習に対する牽制と威嚇であり、米国をはじめとする国際社会の関心を引こうとする意図があるからだ。さらには3代にわたる長期世襲体制の強化と住民の離反を防ぐための武力誇示でもあった。

北朝鮮がミサイル発射に狂奔する一方で、先月、韓国の一部メディアが北朝鮮南西部の開城で「一日数十人ずつ餓死者が続出している」と報じ、その後韓国政府も「深刻な食糧難で餓死者が続出している」(大統領室)との認識を明らかにした。北朝鮮の食糧需要量は年間560万㌧で、不足している供給量は110万㌧で、金正恩政権が昨年ミサイル発射費用として5億6000万㌦を使い果たしたが、これは食糧不足分の60~70%を充当できるほどの巨額である。韓国農村振興庁は昨年12月に2022年度の北朝鮮食糧(穀物やイモ類)生産量は451万㌧で前年比18万㌧(3.8%)減少したと推定したが、生産量が驚くほどに減ったとは言えない。それならばなぜ、餓死者が続出しているというのか。金正恩政権下(2012年以降)での生産量推移を見ると、新型コロナウイルスの大流行が始まった20年に340万㌧まで落ち込んだのを除けば、ほぼ前年の水準を維持しており、北朝鮮の食糧不足は30年間続いてきた構造的問題でもあった。「餓死者続出」の原因として考えられるのは、昨年10月に北朝鮮で実施された新しい穀物供給制度が逆に流通に支障を生じさせた「分配の問題」にあったのではないだろうか。要するに食糧の分配即ち食糧が市中に出回らなくなった、自由に入手ができなくなったからである。

金正恩は「餓死続出」で民心が離れることを危惧し、2月5日に予告していた通り、2月26日から3月1日まで党中央委員会第8期第7回拡大総会で「(今後)数年のうちに農業生産を安定した発展軌道に確実に載せる」ため、「否定的作用する内部要因をその時々探し出して解消する」と述べた。爽快では安定的な農産物増産に向けた対策として、灌漑施設の整備や農村機械化などが強調されたが、このような対策は30年以上も前から言われてきたことで、別に目新しいものではない。

今から20年以上も前のことだが、私は北朝鮮の日本農業視察団が来た時に、団長に「食糧生産の要素は何か」と聞いたら、「土壌4・種4・生産方式2」と答えた。「土壌」は投下する肥料の質と量のことでもあるが、北朝鮮は近年のコロナ禍による中国からの肥料輸入減で食糧生産に支障を来たしていると指摘されている。このような状況下で「朝鮮新報」(2月17日号9は「朝鮮では毎冬、豊作をもたらすために耕地の土壌改良が行われている。朝鮮中央通信によると、4日時点で全国的に数百万㌧の上質な肥料を生産し、9200ヘクタール以上の耕地に土を補填した」と報じているが、「全国的に数百万㌧の上質な肥料」とは何か。全国的に生産された肥料とは、肥料工場で生産された肥料ではなく、糞尿弾を投下した作られた代物である。核・ミサイル開発に狂奔している時ではない。