yuoku「憂国の直言」
徴用工問題で韓国との「協議」は不要である ―日本政府は韓国に国際法を遵守させよー 松木國俊(朝鮮近現代研究所所長)
徴用工問題の解決のためと称して、日韓両国政府が「意見交換」を行っている。1月16日には外務省の船越健裕アジア大洋州局長と韓国外務省の徐旻廷アジア太平洋局長が本件で会談したという。一体何をやっているのだ。これまで日本側は「補償問題は『日韓請求権・経済協力協定』で完全かつ最終的に解決済」という立場をとってきた。ならばなぜ今になって「意見交換」が必要なのだろう。日本側の立場を公式に繰り返すだけで十分のはずだ。
韓国側の狙いは明らかだ。日本政府や日本企業を巻き込んで、なし崩し的に日本側の「解決済」という立場を崩し、日韓間の補償問題を蒸返すことにある。
1月19日付中央日報(日本語版)は、尹徳敏駐日韓国大使が毎日新聞のインタビューで「被害者は日本企業と直接会って謝罪を受けたいと求めている」「韓国が強要できる立場ではないが、自発的に日本企業が資金拠出をすることも和解の一つの方法ではないか」と述べたと伝えている。現在韓国政府は日本企業の賠償支払いを韓国の財団が「肩代わり」するという案を取りまとめており、尹徳敏大使は日本企業が謝罪するとともに債務を肩代わりする韓国の財団に資金を出すよう促しているのだ。
冗談ではない。そもそも「肩代わり」というのは「本来は強制連行した日本政府や強制労働をさせた日本企業に非があるにもかかわらず、とりあえず韓国の財団が立て替えてやる」という意味だ。そのような「肩代わり」案を受け入れたら、日本側に非があると認めることになるではないか。しかもそこに日本企業が寄付をすれば、日本が過去に「やましいことをやった」ということが「事実」として確定する。それこそが韓国側の狙いであることに、なぜ日本の政治家も外交官も気付かないのか歯がゆくて仕方がない。
筆者は尹錫悦大統領就任直後の昨年五月末、本欄に「尹錫悦大統領大統領の『対日接近』を警戒せよ」と言う記事を書き、次のように徴用工問題で日本が韓国に篭絡される恐れがあると警鐘を鳴らした。
「尹錫悦政権は日韓関係改善のために自分たちも努力するが、慰安婦問題や徴用工問題について日本側にも協力して欲しい」と日本側にボールを投げて来るに違いない。韓国がボールを投げてくれば朝日や毎日など反日マスコミが『韓国の主張に柔軟に対応すべき』の大合唱を始め、バラエティー番組の軽薄なコメンテーターが「日本政府は意地を張るな」と国民を惑わす発言を連発して、一気に世論が「対韓融和」へと向かう恐れがある」
正に恐れた通りの事態がやって来たではないか。毎日新聞は前述の尹徳敏駐日大使の発言を報じ、ジャーナリストの青木理氏は1月15日、「サンデーモーニング」に出演し、「僕が見るところ韓国政府としては譲歩した案ですよ。やっぱり日本が一歩譲歩して政府として表明してきた反省とかお詫びというものを改めて表明をし、できれば日本の当該企業なんかも寄付をするという形にしないと、なかなかまとまらないだろう」と語っている。韓国の代弁者のような発言であるが、日本の世論を分裂させる効果は絶大だろう。
日本政府関係者からも「日本企業の賠償責任が免除されれば受け入れ可能」「韓国財団への日本企業の自主的寄付は認める」という話が漏れ伝わっている。だが、ここで日本政府が軽薄な世論に迎合して、迂闊に韓国に譲歩すれば、韓国の老獪なアプローチに乗せられて「強制連行」を認めた河野談話の愚を繰り返すことになる。しかも徴用工問題は慰安婦問題とは比較にならぬ国家の将来を左右するほどの重大問題なのだ。
韓国の最高裁判所の判決は「日本の朝鮮統治は不法な植民地支配だった。従って日本統治下で行われたことは企業活動を含めて全て不法行為である」という認識に基づいている。だからこそ日本製鉄を訴えた原告四人の中に「徴用」で日本に行ったものは一人もおらず、全員が自発的に就職していたにもかかわらず「日本企業がやったことは全て不法な植民地支配下における強制労働だった」という前提で日本製鉄に賠償金支払いを命じたのだ。
「日韓併合」はイングランドとスコットランドの併合と同様の国際法や国内法に則った正式な「国家統合」であり、日本が朝鮮半島を「植民地支配」したわけではない。むしろ日韓併合時代を通して朝鮮半島近代化のために日本政府は莫大な援助をしており、完全な日本側の「持ち出し」であった。日本企業も朝鮮半島に膨大な投資を行い、大量の雇用を創出して朝鮮の人々の生活向上に貢献した。もちろん全て合法な企業活動であり、「強制労働」などあり得るはずがない。
だが、もし日本側が韓国最高裁の判決に従えば「日本統治は不法な植民地支配だった」という韓国最高裁の認識を日本側が是認することになる。「不法な植民地支配」となれば、当時日本が行ったあらゆることが謝罪と賠償の対象となり得る。元徴用工や遺族だけでも20万人に上り、彼らに日本製鉄の原告と同額の補償を行えば2兆円となる。
それどころではない。朝鮮総督府が徴収した税金も日本企業が挙げた利益も全て「収奪」となり、補償の対象となるだろう。「名前を変えさせられた」「言葉を奪われた」これらの慰謝料をよこせと言うことにもなり得る。
そのような事態を避けるべく1951年から1965年まで七次に亘った日韓交渉で日本は決して「不法な植民地支配」と言う韓国の主張を認めず、最終的に1965年に締結された「日韓基本条約」では「大日本帝国と大韓帝国間で結ばれた全ての条約や協定はもはや無効である」という表現で決着させた。
日韓交渉の過程で、日本政府は「未払い賃金」や「年金」など朝鮮人労働者に対する個人補償を行いたいとの申し入れも行ったが、韓国側は「個人補償は韓国政府の責任で行う。日本からの金は一括して韓国政府が受け取る」としてこれを拒否している。
終戦時に朝鮮半島には日本の民間資産(現在の価値で約6兆5000億円)が存在しており、国際法上日本の企業や個人に請求権があったが、日本政府は敢えてこれを全て放棄した。その上で無償3億ドル、有償2億ドル、民間借款3億ドル、合計8億ドルの経済支援を行うことを取り決めた。この額は当時の日本の外貨保有高20億ドルの40%を占め、韓国の年間政府予算の二年半分に相当する。
このような日本側の大幅な譲歩によって1965年に「日韓請求権・経済協力協定」が「日韓基本条約」の付随協定として締結され、その第二条には「日韓の請求権に関する問題が完全かつ最終的に解決した」と明記されている。これによって過去の一切が清算され、今日の日韓関係の基盤が出来上がったことを、もはや韓国は忘れてしまったのだろうか。
岸田首相に申し上げる。国家間の合意は3権(司法、立法、行政)を超越して 国家を拘束するものであり、『条約法に関するウィーン条約』にもそのことが明記されている。韓国最高裁の判決は国際法を逸脱した韓国司法の暴走であり、日本政府は何ら臆することなくこの点を厳しく非難すべきである。
徴用工問題で韓国側と協議すべきことは何もない。協議に応じる姿勢を示せば、韓国側へ「日本として譲歩する用意がある」という誤ったシグナルを送ることになり、徴用工問題に日本が巻き込まれるのは必定である。日本政府は「肩代わり案」のようなごまかしに惑わされず、どこまでも「日韓請求権・経済協力協定で全て解決済」という正論を貫かねばならない。
民間企業の「韓国の財団への自主的寄付」も論外である。政府がこれを認めれば民間企業は「企業イメージ」を保つために寄付せざるを得ない立場に追い込まれる。「寄付」をすれば日本が自ら非を認めたことになるのは冒頭で述べた通りだ。「嘘」が「真実」となり、日本人は未来永劫に亘り、韓国から物心両面における償いを求められることになる。日本の歴史上最大の汚点となり、国の将来に大きな禍根を残すことになるだろう。
岸田首相、ここが踏ん張りどころだ。外交は譲り合いではなく押し合いである。葛藤を恐れていては日本の国益、そして大切な日本人の名誉と誇りを守ることはできない。歴史を歪曲して日本を貶める韓国に対しては、「一ミリも譲歩しない」という固い決意をもって、この「国難」に立ち向かって頂きたい。 以上