shohyo「書評」
【紹介】「北朝鮮よ、兄を返せ─”特定失踪者”実弟による手記」藤田隆司著 ハート出版 三浦小太郎(評論家)
実は、現在著者の藤田氏は病床にある。ご健康であれば、藤田氏自身が自分の言葉で本書について語っただろう。そして 本書は私が多少編集にかかわった書籍であり、「書評」にはふさわしくないので、あくまで紹介記事として書かせていただく。
藤田隆司さんの兄、進さんは、1976年2月7日、19歳の時に「新宿方面のアルバイトのガードマンに行く」と言って出ていったまま姿を消した。藤田氏の家は、母を早くに失い、鋳物工場で働く父親と、兄弟二人で生活していた。学業もスポーツも優秀で、ギターを愛し、体育教師を目指していた藤田進さんが何の前触れもなく姿を消し、何ら手掛かりがつかめない毎日の中、父も隆司氏も悩み、苦しみ、時には兄を恨みつつ、次第にこの悲劇を心の奥にしまい込んで日々の生活を送るしかなかった。
2002年9月、小泉首相の第一次訪朝以後、当時の拉致被害者救出運動団体「救う会」には、連日、事務局の対応が間に合わないほど多くの電話が寄せられた。もちろん、事件への哀しみや怒りを語る声も多かったが、全国から、自分の行方不明の家族ももしかしたら拉致されたのではないかという訴えが寄せられたのである。藤田隆司さんもその一人だった。細かい経緯は除くが、これらの「拉致の疑いを排除できない」人たちの実態を、記録、調査し、救出するための組織として作られたのが特定失踪者問題調査会である。
調査会の代表荒木和博氏は、当初は家族が公開を少々してくれた失踪者の名前をマスコミやネットに公表すれば、ある程度は名乗り出るか、何らかの連絡が取れるだろうとか投げていたようだ。ところが、その傾向はほとんどなかった。そして、逆に北朝鮮からの脱北者によるいくつかの証言は出てきた。しかし、その多くは「目撃情報」であって、客観的な一次情報とは言い難い。その中で物証として出てきたのが、藤田進さんの顔写真だった。
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