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空にはミサイル、田畑には糞尿弾、そして地下には核爆弾、北朝鮮の修羅場 宮塚利雄(宮塚コリア研究所代表)

 今の北朝鮮を理解するキーワードは「ミサイル弾」「糞尿弾」「核爆弾」である。ロシアのウクライナ侵攻(侵略)で、北朝鮮の金正恩は「力は正義」「核は正義」「核なし国は核保有国に侵攻(侵略)される」『だから核を保有し、さらなる開発実験に励む』という、金科玉条の教訓を得た。北朝鮮は5月に入り4日に故都市13回目となる中長距離弾道ミサイルを発射し、7日には潜水艦発射弾道ミサイル(SLBМ)を昨年10月19日に新型を発射して以来7カ月ぶりに日本海に向けて発射した。北朝鮮が今月に入り二回もの弾道ミサイルの発射実験を行ったのは、昨年1月の朝鮮労働党大会で定めた「国防科学発展・兵器システム開発5カ年計画」に沿って多様なミサイル開発を行ってきた結果で、10日に発足した韓国の尹錫悦新政権を牽制する意図もあったが、金正恩は4月25日の朝鮮人民軍創設90年を記念する軍事パレードの演説で、核兵器を「最大限、急速に強化・発展させる」と表明し、「核の抑止力をいつでも稼働できるよう、徹底的に準備していなければならない」と強調した。また、金正恩は核戦略を質と量で強化し、実戦での目的や任務に応じ「異なる手段で核戦闘能力を発揮できるよう」準備を指示した。さらに4月29日には軍首脳部との会合で金正恩は「敵対勢力」の「核の脅威を含む全ての危険な試みと威嚇的行動」を「必要ならば先制的、徹底的に制圧・粉砕する」ために軍事力の強化を継続する考えを強調し、核の脅威に対しては先制攻撃もいとわない姿勢を示した。いわば「核あっての北朝鮮」を誇示したことになるが、米CNNテレビは5月5日、米軍と情報機関の分析として、北朝鮮が今月中に核実験再開に向けた準備を整える可能性があると報じた。北朝鮮北東部の豊渓里の核実験場で準備を進めているといるとのことで、韓国の有力紙、東亜日報は6日、ソウルで21日に予定される米韓首脳会談の直前に、北朝鮮が核実験を行う可能性が高いと報じた。CNNによると米国は豊渓里実験場の坑道に核物資が持ち込まれたかどうか、監視を続けているとのことだが、バイデン大統領の今月20~24日の日韓訪問時にタイミングを狙って核実験を行うことになれば、日韓米同盟への大いなる挑戦となるが、いずれにせよ、北朝鮮の非核化がさらに遠の恐れが出てきたことだけは事実である。

 さて、以前もこの尾籠な表題を使ったが、北朝鮮も5月に入り「モネギ チョントゥ (田植え戦闘)」に突入したが、新年早々から強制供出された「ウリシク チュチェ ピリョ(われわれ式の主体肥料)」こと糞尿が投下された田畑での成果が試される時期となった。北朝鮮は昨年1月に中朝国境を封鎖し、中国からの化学肥料も今年は十分に入ってきていない中での田植えである。北朝鮮の誇る人糞弾は金日成の時代から重宝がられていたことを示す資料を『金賢姫全告白 いま、女として 下』〈文藝春秋 1991年10月1日』から紹介したい。

 「人糞集め」とは、農村へ肥料の支援をするために、各世帯毎、乾いた人糞何キロかを集めて人民班へ提出したり、定められた日に来る収集車に出すようになっていた。朝6時から9時に人糞車が来ると、それまで集めておいた人糞をバケツに入れて持って行き、その質と量によって赤い紙と青い紙をくれるが、この紙は後で班長達が集め、品物購買券割り当ての参考にした。朝は、父母たちは朝ごはんの支度や庭の掃除が忙しく、人糞者が来ると子供たちが人糞バケツを持ち運ぶことになる。この時はそのいやな臭いよりも購買券の割り当てが魅力で、割り当ての赤い紙をもらおうと、人糞車で働く人の目の前にそのバケツをしっかり見せて、「私が持ってきた人糞がいちばん多いよ」と喚き立てる。人糞を集めるときにはアパートの後の庭に穴を掘り、尿瓶に集めた家族の便を持って土と混ぜ合わさなければならないが、わが家ではそれを長女の私がしなければならなかった。その作業を一生懸命やっていると、あちこちで人糞の臭いがして鼻をつまむことも度々だった。

 

 北朝鮮の田植えはこの2~30年来、田植え機の真ん中に男性がその両隣に苗を補給する女性が付く姿は変わらない。日本では田植え労働の辛さを解消するために自動田植え機が登場しているが、北朝鮮では労働者の苦労など顧みないようだ。空と地下に多大な資金と労力を無駄に投入しているとしか見られない、金正恩護持のためのミサイル・核爆弾で、人民のための糞溶弾の効力を期待するしかない。