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「平和を望むならば、戦いに備えよ ニュ-クリア・シェアリングの実践こそ救国の責務だ」 西村 眞悟
まず、ロシアとは何か、大統領のプーチンは何をやっておるのか、ということに関して、次の一文を読む必要がある。
地政学的・歴史的要因を背景に、ロシアでは、安全保障上の不安感と強力な中央集権的国家の要請という二つの心理的状況が生まれ、これらが綾をなして独特の安全保障観が形成された。
すなわち、百パーセントの安全では満足できず、それ以上の安全を求めて空間を拡大するという発想である。これが「守るために攻める」という独特の行動パターンをつくり上げた。それが近隣諸国にとってどれほどの脅威かについては無感覚である。・・・このロシアの伝統的な膨張主義は、外からの強力な抵抗もしくは自滅によってのみ、克服できる性格のものでしかなかった。
この一文は、まるで、現在のウクライナに対するプーチンの侵攻を予想しているようではないか。これは、外務省東欧第一課長として、昭和四十八年(一九七三年)十月の田中・ブレジネフ会談を演出し、日ソ間の「未解決の問題」に、北方領土問題が含まれるか否かに関して、ブレジネフの「ダー(含まれる)」という歴史的な返答を引き出した新井弘一氏が、ロシア・東欧問題の第一人者として、二十二年前に記したものである(同氏著「モスクワ・ベルリン・東京」、時事通信社)。
ここで記されているロシアの「地政学的要因」とは、国土のほとんどが平坦で限りない平原と森林であること。この草原国家の特質は国境が常に不安定であるということだ。つまり、中央権力が弱くなれば国境線が内に動き、強くなれば外に動く。また、ロシアの「歴史的要因と」は、十三世紀から十五世紀までの二百三十年間、タタール・モンゴルの専制的・強権的支配(頸城)の下にあったこと。その結果、ロシアには近代化を生みだしたルネッサンスや宗教改革もない。それ故、ロシア(イワン雷帝以下のツアー)は、タタールの頸城から脱しても、タタールの専制的・強権的統治方式をそのまま採用した。それ故、ロシアは「皮を被ったタタール」と言われる。
前記の日ソ会談を演出した新井氏は、最後の駐東ドイツ特命全権大使として、ベルリンの壁崩壊と東ドイツの消滅を見届けた(一九八九年~九〇年)。その時、プーチンもKGB(ソ連国家保安委員会)の諜報員として東ドイツに駐在しており、ベルリンにソビエトの戦車を雪崩れ込ませようと画策していた。
そこで、冒頭に、何故、新井氏の一文を記したのか。その訳は、今、西のウクライナで起こっていることはユーラシアの東の我が国にも既に起こっていたし、これからも起こることを実感するためだ。我が国が、ポツダム宣言を受諾して武装を解除してから、ロシア(ソ連)は南樺太と千島に侵攻して未だに居座り、さらに北海道を奪おうとしたではないか。我が国もウクライナ同様にロシアと狭い海を隔てて国境を接していることを忘れてはならない。さらに、我が国は、ロシアの南の中共とも国境を接している。この状況は、ユーラシア大陸の東方近海域に、南北に細長い縦深性のない我が日本列島が、腹をロシアと中共に向けて無防備に寝転んでいるようである。
しかも、近年、ユーラシアのシベリア以東において、毎年ロシアが行うボストーク(東方)という名を冠した軍事演習に、既に中共軍が参加しており、我が国の東西南北の周辺海域では中露両国海軍が合同軍事演習を繰り返している。さらに、我が国領空に接近する中露両国の空軍機に対する我が航空自衛隊機によるスクランブル発進回数は、二〇二〇年を含む三年間の平均では一年間に対中共軍機五九〇回、対ロシア軍機二八九回である。これは、既に「有事」の頻度ではないか。
以上の中露両国軍の動きを総合すれば、中露両国は連携して北と南から我が国を攻略する具体的な構想を固めつつあると判断すべきである。北のロシアは、果てしなく空間を拡大しようとして、まず北海道を狙い、南の中共は、独善と強欲の権化であり、既に尖閣海域に進出し沖縄本島に迫っている。
そこで、ロシアのウクライナ侵攻が我が国に教える最重要の教訓とは何か。それは、ウクライナが核を保有していたら、この度のロシアのウクライナ侵攻はなかったということだ。
一九九一年十二月のソビエト崩壊後、ウクライナは世界第三位の核を保有していた。しかし、一九九四年の欧州安全保障協力機構会議の「ブダペスト覚書」で、ウクライナは核不拡散条約に署名し、核を放棄してロシアに引渡して軽武装国となり、ロシアを含むアメリカやイギリスなどがウクライナの安全を保障することになった。しかし、そのロシアが、警官が強盗をするようにウクライナに侵攻しているのだ。これに対して我が国は、ウクライナ式の軽武装どころか、「日本国憲法」によれば、交戦権と陸海空軍を認めない武装放棄国である。即ち、ロシアと中共がヨダレを流して飲み込みたい国ではないか。よって、ロシアと中共の侵攻を抑止する為に、我が国は核による抑止力を持たねばならない。その最も現実的な方策は、アメリカが保有する北京とモスクワに届く核兵器を我が国内に配備してアメリカと共同運用することである(ニュークリア・シェアリング)。
最近、安倍晋三元総理が、このニュークリア・シェアリングを提唱した。すると現総理が即座に否定した。よって、安倍晋三氏の国家と国民に対する責務は具体的に明白になった。安倍晋三君、次の自民党総裁選挙に立候補して総理に三度目の返り咲きを果たし、アメリカとのニュークリア・シェアリングを実現せよ。既に時間的猶予は無いぞ。古代ローマ以来の格言は、「平和を望むならば、戦いに備えよ」である。