yuoku「憂国の直言」

【憂国の直言】日本政府は「核共有」を即刻議論せよ   松木國俊(朝鮮近現代史研究所所長)

これで本当に国を守れるのか。良識ある国民は背筋の凍る思いをしているに違いない。

安倍元首相が2月27日のフジテレビ番組で「核共有」に関する議論の必要性に言及したことに対し、岸田首相は「非核三原則が我が国の立場であり政府においては核共有を認めない、議論は行わない」と即座にこれを拒否したのだ。一般国民の間の「核アレルギー」感情にひたすら迎合して思考停止となり、日本国家の生存をかけた重要な議論を忌避する岸田氏の姿勢は、一国の首相として甚だ無責任と言わざるをえない。

我が日本はロシアと中国、北朝鮮と韓国に取り囲まれている。しかも韓国を除けば皆核保有国であり、日本に向けて核ミサイルの照準を合わせている。日本国憲法の前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して我らの安全と生存を保持しようと決意した」とある。ならば日本人が生存できるかどうかはロシア、中国、北朝鮮の「公正と信義」にかかっており、我々を生かすも殺すも彼らの「胸先三寸」ということになるではないか。

では国連が日本を守ってくれるか?冗談ではない。国連安保理常任理事国5カ国の中にロシアと中国が入っている。そして今現在世界の平和を脅かしているのがこの2カ国なのだ。彼らが拒否権を使えば国連安保理は機能しない。ウクライナへのロシア軍の侵攻に対して国連は「非難決議」を出す以外になすすべがないのは見ての通りだ。

しかも国連には「敵国条項」があり、第二次大戦の敗戦国である日本は国連では「敵国」に分類されている。国連加盟国や地域安全保障機構は、安保理の許可がなくとも「敵国」に対して軍事制裁を科すことができる。1995年の第50回国連総会で「敵国条項」を国連憲章から削除することが議決されたが、ロシアも中国もこれを批准しておらず、未だに憲章は改正されていない。つまり国連は日本を守るどころか安保理の許可なしに日本を攻撃するお墨付きを中国やロシアに与えているのが実態なのだ。

外交問題をすべて話し合いで解決できるほど人類社会は進化していない。その中で平和を保つには軍事バランスを維持する以外にない。冷戦時代ソ連が東欧諸国に配備した中距離核ミサイルSS―20を撤去させるために、米国は西独にパーシングミサイルを配備してバランスをとり、両者撤去に持ち込んでいる。現在もドイツ、ベルギー、オランダ、イタリアは米国と「核共有」協定を結び、米国製核兵器を自国内に配備して運用している。万一他国より核攻撃を受けた場合、自分たちが核による反撃のボタンを押すことが可能であり、これらの国々は事実上自力での核抑止力を保持しているのだ。

歴史に「if」はないと言うが、もし第二次大戦中に日本が核兵器開発に成功し、それを公表していたら米国は日本に原爆を落としただろうか。日本に押し寄せた米海軍の大艦隊の頭上に原爆を炸裂させれば一巻の終わりである。日本に核兵器がないからこそ安心して原爆を落としたのだ。ウクライナにロシア軍が侵攻出来たのも、ソ連崩壊時にウクライナの核をすべてロシアに引き上げ、ウクライナから核戦力を奪っていたからだ。

これからも相互確証破壊を招く核保有国同士の核戦争は起きないだろう。だが核保有国と非保有国の間ならばそれは起こりえる。そして核による反撃力を持たず、しかも専守防衛に縛られた日本は最も狙いやすい国の一つである。ミサイル迎撃体制をいくら整備しても、大量の核ミサイルを撃ち込まれたらひとたまりもないからだ。

「米国の核の傘」も全くあてにならない。もともと自国民の生命財産の安全を他国に依存していること自体、主権国家としての体をなしていない。しかも常識的に考えて米国がワシントンやニューヨークにICMBを落とされるのを甘受してまで、日本のために核を使用するはずがないだろう。それは中国もロシアも北朝鮮もわかっており、いざとなればこれらの国々が核ミサイルで日本を攻撃する可能性は十分にある。中国が台湾侵攻する際に日本に核爆弾を落とせば、米国は手も足も出せなくなり東アジアの覇権は中国が握るだろう。

日本が核の惨禍から免れる道はただ一つしかない。相手に日本への核攻撃を思いとどまらせるだけの核反撃力を自力で保持することだ。そのための最も現実的方法が「核共有」である。それは必ずしも陸上配備でなくてもよい。核ミサイルを搭載した米軍の原子力潜水艦に自衛隊員が同乗する方法もある。

岸田首相に申し上げる。「非核三原則」など唱えてお花畑で夢を見ている場合ではない。周りを取り囲む国々による核攻撃から日本を守るために、「核共有」について真剣な議論を即刻開始すべきである。二度と再び日本に原爆を落とさせないために、日本の国防はいかにあるべきか首相として今こそ死ぬ気で考えて欲しい。

以上