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【論説】3時間退屈しない佳作『ドライブ・マイ・カー』

※イメージ画像

 

第94回米アカデミー賞作品賞の候補作が2月8日発表され、濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』がノミネートされた。邦画史上初の快挙となる。

 

同作は、すでにカンヌ映画祭脚本賞や国際映画批評家連盟賞、ゴールデングローブ賞非英語作品賞を受賞し、その他にも世界各地で最高の「作品賞」を受賞している。アカデミー賞では、作品賞以外に外国語映画賞、監督賞、脚色賞の4部門にノミネートされた。

 

そんな事情を露知らず、近所のシネコンが水曜サービスデーで安いので夕方、ふらっと同作を観た。先日は「ハウス・オブ・グッチ」を観て、思いがけず良い作品に出会った直後だけに、そう何度も良作には出会わないだろうと、あまり期待していなかった。現在上映中で高評価だったので同作を選んだに過ぎない。

 

スマホで作品紹介を検索すると、村上春樹原作とあり、意外な印象を抱いた。毎年ノーベル文学賞候補として名前が挙がる当代随一の人気作家だが、彼の小説はどれも独特の修辞法で成り立つクセの強い世界観や死生観で成り立っている。文章力で引き込む要素が大きい分、映像化が難しいと思ったからだ。事実、これだけの大家にもかかわらず、村上氏原作で高く評価された映像作品はほとんどない。

 

ところが小さめの劇場客席が平日夕方にも関わらず、かなり埋まっている。直前でチケットを購入したが、その後も駆け込みで購入した客が数人いたようで、悠々自適だった周囲の席が均等に埋まってしまった。世事に疎い私とは対照的に、オスカーノミネートのニュースを知った情報通が反応したのだろう。

 

179分という長丁場の上映時間だったが、中だるみのない見事な内容で、上映後のエンドロールでは良質な映画を観た後にだけ訪れる放心状態に浸り、作品世界に引き摺りこまれる結果となってしまった。同作は、村上氏の短編小説『ドライブ・マイ・カー』と『シェエラザード』『木野』の三作を、濱口監督が再構成し、透徹した1本の作品世界に再構成したオリジナル脚本である。

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