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迫りくる北朝鮮・中国からの脅威と国防意識 宮塚利雄(宮塚コリア研究所代表)
元航空自衛隊航空総隊司令官の大串康夫氏が先月21日、都内で「迫りくる危機に立ち向かう!~私たちの提言~」と題して講演した。大串氏は、頻繁にミサイル発射実験を行う北朝鮮や尖閣諸島沖で領海侵犯を繰り返す中国などを念頭に「(国民が)日本の置かれている状況を理解し、主体的な防衛意識を持つことが必要だ」と指摘し、「尖閣も米国が守ってくれると思っていては守れない。アフガンのように(国防を放棄した状態)なったら米国は助けに来ない」と強調した。
最近の北朝鮮による相次ぐミサイル発射実験に関して、日本国内でもようやく「敵基地攻撃能力を検討すべきだ」という意見が聞かれるようになった。現に防衛省は11月12日、国家安全保障戦略や防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画(中期防)の戦略3文書の改訂に向け「防衛力強化加速会議」を設置し、初会合を同省で開催した。同会議は岸田文雄首相の指示で設置され、敵基地攻撃能力を含めて議論したとのこと。会議は岸信夫防衛相トップに防衛省局長級幹部や各自衛隊の幕僚長らで構成され、岸氏は会議冒頭で「急速なスピードで技術が進行している。変化の中で命や平和のために必要なものは何か、冷静かつ現実的な議論を突き詰めることが重要だ」と強調した。北朝鮮によるミサイル発射実験に関して「敵基地攻撃能力を検討することは大いに結構なことであるが」、敵基地攻撃の場合、相手のミサイルの正確な位置を事前に掴んでおかなければならないということだ。
北朝鮮は9月11,12日に低高度で1500㎞飛行が可能な、米軍の「トマホーク」に酷似した長距離巡行ミサイルを、9月15日には貨物列車を改造した発射台を使用した、変則的な軌道で飛行したミサイルを発射、9月28日には弾頭部の誘導機能などを確認したと主張する、音速の5倍以上の速さで飛ぶ極超音速「火星8」を発射、10月19日に発射した弾道ミサイルは新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBМ)であったと、翌20日付け朝鮮中央通信は兵器を開発する国防科学院が試射に成功したと伝えた。
この新型SLBМは下降時に急上昇する特性を持つ、「北朝鮮版イスカンデル」と呼ばれる短距離弾道ミサイルに酷似すると分析されている。同ミサイルの飛行距離は600~700㎞程度で韓国や日本の米軍基地を射程に収め、変則的な軌道を飛ぶために迎撃が難しいとされる。発射に使われた潜水艦は、2016年8月にSLBМを発射したコレ級潜水艦(排水量約1500㌧)と見られる。旧ソ連の技術をベースにした旧式で、ミサイルを一発だけ搭載できる。朝鮮中央通信は発射実験を「海軍の水中作戦能力向上に大きく寄与する」と評価したが、潜水艦の能力を踏まえると長距離の作戦には不向きとの評価もあるものの、隠密性の高い潜水艦から発射するSLBМは、敵の核攻撃に対する反撃能力を示すことに繋がり、
相手に先制攻撃をためらわせる抑止力となる
北朝鮮がこのように多様なミサイルの開発に力を注いでいるのはなぜか。共通するのは「奇襲能力」の向上を図っている点で、「複数のミサイルを多様な手段で同時多発的に撃たれた場合は脅威」となる。
このように多様化する北朝鮮のミサイルに、日本のミサイル防衛のシステムでは探知は難しいと言われているが、「相手が撃つ前に先手を」という先制的自衛権の発動も選択肢として持つ必要があるならば、そのためには「相手のミサイルの正確な位置を事前に掴んでおかなければならない」が、北朝鮮側は衛星や電波傍受には用心しており、いざとなれば監視網に引っかからないように行動することが求められることは当然のことである。敵基地攻撃論もさることながら、問題はそれ以前に、「専守防衛」問題である。専守防衛は戦後の防衛政策の背骨のようなもので、「日本の抑止力妨げる弊害をもたらしてきた」と言われている。今こそ、北朝鮮・中国、それにロシアからの軍事的脅威を前に、日本政府と日本人は真摯に「専守防衛」について論議すべき時が来ている。前統合幕僚長の河野克俊氏は某日刊紙で「『国家の品格』落す専守防衛」と喝破していたが、卓見である。