kiji記事
【論説】力士じゃない「プロレスラー」白鵬の遅過ぎた引退
※引退した白鵬(日本相撲協会HPより)
憎たらしいほど強かった千代の富士が引退した1991年5月、一浪生活を送っていた自分は、テレビを観ながら1つの時代が終わったその瞬間を記憶した。「体力の限界……気力も無くなり、引退することになりました。以上です」と言葉少なに語り、涙を拭うウルフの男泣きには、さほど相撲に興味がなかった自分でも印象に残る青春の1ページとなった。
そのウルフに引導を渡した貴乃花が横綱となり、幕内22回目の優勝をかけた2001年5月場所15日目。前日の取り組みで半月板損傷の大けがを負った横綱は、1差で追う武蔵丸にあっけなく敗れ、優勝決定戦となる。まともに歩くこともできない状態に見かねた周囲から棄権を勧められたが強行し、貴乃花は豪快な上手投げで破り、現役最後となる優勝を飾る。
鬼のような形相は後世の語り草となり、賜杯を授与した小泉純一郎首相は「痛みに耐えてよく頑張った。感動した」と激賞。相撲史に燦然と輝く名シーンとなった。しかし、その対価として右膝は手術後も完治せず、2年後の引退に追い込まれた。
千代の富士にしても、貴乃花にしても、理屈や数字ではない。その瞬間の男気や生き様が彼らの言葉になり、表情になり、我々視聴者を惹きつけ、脳裏に焼き付く記憶となって伝説になったのである。そこに、「日本人だから」「品格があるから」などというちんけな屁理屈が入り込む余地なんてない。
記録の上では、そんな両者を軽く凌ぐ「大横綱」白鵬(36)が引退した。幕内で歴代最多45回優勝、史上最多タイ7連覇、前人未到の幕内通算1000勝、横綱在位最長84場所。記録ずくめの横綱であることは間違いない。にもかかわらず、コロナ禍や皇室報道、選挙報道にかき消されて話題にすらならない。
そんな酷い扱いにタレントのミッツ・マングローブ氏が週刊朝日で苦言を呈している。
曰く―――――――――――――――――――――
曙や朝青龍もそうでしたが、「外国人力士」と言われる人たちが角界を席巻するとともに、急に世間が「横綱の品格」なんて言葉を声高に叫び始めるあの感じが、どうにもこうにも気持ち悪かった
日本の国技のひとつでもある相撲に、一定の保守的な価値観や規律を課すのは確かに大事です。しかし、朝青龍や白鵬に対する否定や批判は、ただの「やっかみ」にしか見えないものが多かったように思うのです
どうせ何年かすれば、世間は「史上最強の横綱・白鵬」を手放しに讃え、下手すりゃ憐れむ風潮すら出てくるのでしょう。しかし「白鵬に対する仕打ち」は、日本をさらに「スターの生まれにくい国」にしてしまった気がします。これは取り返しのつかない損失です
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どうも、我々一般人の感覚とはズレている認識で、読んだ自分も別の意味で気持ち悪さが残った。週刊朝日という反権力志向の雑誌である点を差し引いても、朝青龍や白鵬の品格問題を「やっかみ」で片付けるのは、あまりにも見当違いである。
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