araki「拉致問題の闇を切る」
[これでは何も動かない] 荒木和博(特定失踪者調査会 代表)
特定失踪者問題調査会が9月16日の菅義偉内閣組閣直後、特定失踪者家族会(今井英輝会長)が10月21日の加藤勝信官房長官兼拉致問題担当大臣面会時に提出した要請文書の回答が届きました。政府拉致問題対策本部事務局からのものでどちらも12月9日付です。下に項目別に要請内容と政府回答を載せておきます。 まあ正直期待はしていなかったのですが、それでも何か少しは前に進めてくれるのではないかと思っていました。結果的には事実上のゼロ回答。まあよくもこれだけ何もしない言い訳を羅列できるものだと感心します。ともかく一度読んでみて下さい。回答が届いた直後の12月12日に都内で政府主催の国際シンポジウムが開催されました。開会前に同じ会場で特定失踪者家族懇談会が開かれたのですが、シンポジウムに出席する加藤官房長官も懇談会の会場に来られたので「取りまとめて下さった対策本部事務局には感謝するが回答はとても納得できるものではありません」とお伝えしました。 今年国会では衆参の拉致問題対策特別委員会での実質審議は一度も行われませんでした。拉致問題担当大臣・外務大臣・国家公安委員長が全て顔を揃えねばならないので日程調整が難しいというのが理由だそうですが、「政権の最優先課題」ならば最優先にして3大臣が日程を合わせるのが筋でしょう。それが無理なら副大臣でもかまいません。ともかく委員会が全く開かれないというのはどう考えても異常です。要は何も動いていないので議論しようがないということなのか。ならばどうして動かないのかについて議論すれば良いのに。 「四半世紀拉致問題に関わってきて、永田町と霞ヶ関がいかに拉致被害者救出に役に立たないか、というより救出の阻害要因になっているかを痛感してきた」 この間立憲民主党・国民民主党・日本維新の会それぞれの拉致問題対策本部の会合に出席し、全く同じ発言をしました。自民党の信頼できる議員さんにも同じことを言っています。もちろんそこに来ている議員さんは他の議員さんよりは拉致問題に熱心に取り組んで来た方がほとんどです。不本意だろうなとは思います。しかしもうそう言わなければならないところまで事態が切迫しているというのが現状です。政府回答を受け入れていたら大部分の拉致被害者は北朝鮮で死んでいきます。 私たちはともかく今後も様々なルートを通じて個別具体的な要望を行っていきますが、政治判断がなければ前には進みません。そしてその政治判断を実現するには国民の怒りの声が必要です。どうか読者の皆様のご協力をよろしくお願い申し上げます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー (9月16日に調査会代表荒木名で加藤大臣宛に出した要請とその回答) <要請文書項目1> 特定失踪者家族と総理の面会が一日も早く実現するよう大臣からのご尽力をお願い申し上げます。 <1への政府回答> 政府としては、拉致被害者として認定された17名以外にも、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者の方々がいらっしゃると認識しており、認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国のために全力を尽くしているところです。 拉致の可能性を排除できない行方不明者の方々の御家族に対しては、まずは拉致問題担当大臣がお会いしてお話をお伺いさせていただきたいと考えております。 今後とも、情報提供や要望の聴取など、御家族の皆様に寄り添い丁寧な対応に努めてまいります。 —————————————— <要請文書項目2> 北朝鮮の内部が相当混乱した状況であることに鑑み、総理ないし官房長官が「北朝鮮のどのような組織・個人であれ拉致被害者救出に協力する場合は政府が全面的な支援・協力を行う」とのメッセージを発していただきたくお願い申し上げます。 <2への政府回答> 北朝鮮とのやり取りの詳細については、今後の対応に支障を来すおそれがあることから、明らかにすることは差し控えさせていただきます。 なお、域内への情報伝達手段が限られている北朝鮮に対しては、日本政府や日本国民のメッセージを伝達する手段として、北朝鮮向けラジオ放送は効果的なものですが、北朝鮮向けラジオ放送で送信するメッセージ等の内容については、いかなるメッセージを送ることが拉致問題解決のため最も効果的かという観点から精査しています。 —————————————— <要請文書項目3> 現在北朝鮮側から執拗に妨害電波の発射されている(つまり効果を上げている)「しおかぜ」について、政府としての更なる支援をお願いします。また、本件に限らず国家の戦略としての国際放送の安定的運営のためには放送施設を政府が管理することが必要です。それらについての要請のためぜひ総務大臣と直接面会させていただきたく、お取り次ぎをお願いします。 <3への政府回答> 従来より、政府としては、調査会との間の業務委託契約を通じ、調査会の運営する北朝鮮向けラジオ放送「しおかぜ」の番組の中で政府メッセージの送信等を行ってきていますが、今後とも、北朝鮮向けラジオ放送の効果的な実施のため、よく連携していきたいと考えております。
また、ご指摘いただいた国際放送の安定的な運営については、KDDIがNHKからラジオ国際放送の送信業務を受託し、長年送信所の運用を安定的に行ってきており、KDDI及びNHKからも、引き続き送信所の安定的な維持運用に努める予定との回答を得ていることから、政府としては現行の運用体制の下で今後も国際放送が安定的に運営されるものと考えております。また、政府自らが国際放送施設を管理することについては、これまで実績がないため施設管理に必要な技術及び知見を有しておらず、慎重な検討が必要であるものと考えております。 本件に関するご要請については、内閣官房拉致問題対策本部事務局及び総務省の担当部局において、よくお話を伺うとともに、総務省の担当部局において、国際放送の安定的運営に関する考え方等について、ご説明させていただきたいと考えております。 —————————————— <要請文書項目4> すでに何度も要請していることですが、拉致被害者救出のために自衛隊への任務付与が必要であり、現地の地誌情報収集や派遣準備など、直ぐにでも始めておくべきことは山積しています。しかし先般行った防衛省への情報開示請求についての対応はおよそ国民を守る意志の感じられないものでした。本件について、責任者たる防衛大臣と直接面会し、要請をさせていただきたく、お取り次ぎをお願いします。 <4への政府回答> 防衛省が本年3月30日付で受理した開示請求に関しては、防衛省は、従来から政府として「自衛隊による救出活動には、国際法と我が国憲法上の制約があるため、これ以上の自衛隊の活用には限界があることは事実ですが、今後とも、政府全体として、拉致被害者の救出のために何ができるかについて、不断の検討を継続してまいります。」と回答していることを踏まえ、行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づき、適切に対応しているものと承知しております。 その上で、本件に関するご要請に関しては、防衛省では、まずは担当課において、今般の開示請求に係る考え方等について、ご説明させていただきたいと考えております。 —————————————— <要請文書項目5> 2年前に北朝鮮から解放され米国に戻ったドンチョル・キム博士は既に報じられているように北朝鮮で多数の日本人と接触しています。博士は拉致問題で日本政府にも協力したいとの意向を持っており、政府として詳細な聞き取りや情報の確認をしていただきたくお願い申し上げます。また、私たちとしても一刻も早く直接面会して写真等の照合を行いたく思っております。現在日本から米国への渡航はかなり困難な状況ですが、ぜひ政府としてのご協力を賜りたくお願い申し上げます。 <5への政府回答> 政府としては、各種情報について、平素からその収集・分析に努めておりますが、今後の活動に支障を来すおそれがあることから、その具体的な内容についてはお答えを差し控えさせていただきます。
いずれにしても、政府としては全ての拉致被害者の一日も早い帰国実現に向け、あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で行動してまいります。 なお、我が国政府としては現時点、米国の新型コロナウイルスの感染状況等を踏まえ、米国への渡航の自粛(レベル3:渡航は止めてください。(渡航中止勧告))を要請している点にもご留意下さい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー (10月21日に特定失踪者家族会今井会長名で菅総理・加藤官房長官宛に出した要請とその回答) <要請項目1> 今までとは違う形の救出の方策、実効性のある方策を実施してください。 10月15日で2002年の拉致被害者帰国から18年が経ちました。その間1人の拉致被害者も救出されていません。古川了子さんの拉致認定を求める訴訟にあたって、平成19年4月26日、当時の河内隆・内閣官房拉致問題対策本部事務局総合調整室長兼内閣府拉致被害者等支援担当室長の表明した「表明所」によれば「すべての拉致被害者の北朝鮮からの速やかな帰国を実現することをはじめとした拉致問題の解決に向け、全力で取り組んでいくこととする」とありました。これを信じて私たちは訴訟を取り下げたのですが、その後13年間、事実上何の結果も出なかったというのが現実です。 菅政権になってから北朝鮮外務省が発表した中で、“我々の誠意と努力によって既に引き戻せないほど完全無欠に解決された”と談話が発表されたと言うことは、今までの日本政府の踏襲では何年経っても解決の道は見つけられず、救出の扉は開かないと思います。北朝鮮に対しては今までとは違う方策を行使し、確実に被害者を取り返す行動を起こしていただきたく思います。 例えば、ドンチョル・キム博士を含む脱北者の方々からの情報収集を積極的に行い、北朝鮮に囚われている日本人の存在を精査してください。 <1への政府回答> 拉致問題の解決に向けて、米国をはじめとする関係国と緊密な連携を進めていくと同時に、我が国自身が主体的に取組を進めていくことが重要であり、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合うとの考えを、菅総理自身、累次の機会に表明しております。 なお、政府としては、各種情報について、平素からその収集・分析に努めておりますが、今後の活動に支障を来すおそれがあることから、その具体的な内容についてはお答えを差し控えさせていただきます。 いずれにしても、政府としては全ての拉致被害者の一日も早い帰国実現に向け、あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で行動してまいります。 —————————————— <要請項目2> 特定失踪者家族と菅総理大臣が面談できるようにお取り計らい下さい。
安倍総理も含め、歴代の総理大臣は特定失踪者家族とは面談を一切行いませんでした。それは全ての拉致被害者と言いつつも、認定被害者と未認定の被害者を明らかに区別することになり私たち家族は容認できるものではありません。 総理が特定失踪者家族と面会する映像が流れれば、それは日本の国内のみならず北朝鮮に対しても、菅政権が全ての拉致被害者救出に向けて強い意志を持っていることを示す分かり易い表明になるはずであり、北朝鮮に対する圧力にもなります。 <2への政府回答> 政府としては、拉致被害者として認定された17名以外にも、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない行方不明者の方々がいらっしゃると認識しており、認定の有無にかかわらず、全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国のために全力を尽くしているところです。 拉致の可能性を排除できない行方不明者の方々の御家族に対しては、まずは拉致問題担当大臣がお会いしてお話をお伺いさせていただきたいと考えております。 今後とも、情報提供や要望の聴取など、御家族の皆様に寄り添い丁寧な対応に努めてまいります。 —————————————— <要請項目3> 拉致被害者の認定を追加してください。 拉致被害者の認定は2002年小泉訪朝で曽我さん母子の拉致が明らかになった後は田中実さん、松本京子さんが追加認定されただけで、いまだに17人のみに止まっています。前述の「表明書」でも「北朝鮮当局による拉致行為があったと確認された場合には、速やかに(中略)『被害者』として認定することとする」とありますが、田中さん・松本さんの認定は古川訴訟の最中に行われており、政府の表明書を信じ訴訟を取り下げた後は13年間ただ一人の認定もなされていません。 国連のCOIでも被害者は100人以上に及ぶと発表しています。当事者である日本が具体的な被害者氏名を更新しない限り北朝鮮に足元を見られている現実は回避できません。20年近い年月の警察その他による国内調査の成果を拉致被害認定者の追加という形で、明確に実現してください。北朝鮮からの言いがかりを危惧する余り国民の命に係わる問題を疎かにすることのないよう強い意志で施策をお願いします。 <3への政府回答> 拉致被害者の認定は、関係府省庁による捜査・調査の結果、北朝鮮当局による拉致行為があったことが確認された場合に行うこととしています。拉致の可能性を排除できない事案については、関係府省庁が連携して鋭意捜査・調査をしているところですが、これまでのところ、北朝鮮による拉致行為があったことを確認するには至っていません。 政府としては、今後も事案の真相解明に向けて全力を挙げて取り組んでいく考えであり、北朝鮮による拉致行為があったと確認された場合には、速やかに拉致認定をしてまいります。
—————————————— <要請項目4> 被害者の現状を認識してください。 政府の発表している拉致の可能性を排除できない行方不明者=特定失踪者は現在875名ですが、そのうち氏名を公開している人と認定被害者を加えるとおよそ540名います。 それらの人々で現在70歳以上になっている人は51%、60歳以上で見ると実に77%に達しています。90歳以上100歳を超えている人も26人おられます。人の命には限りがあります。 待ちわびる家族の高齢化はもとよりですが、この被害者の現実をしっかり認識し、被害者の救出が一刻の猶予もないことを真剣に受け止めて、救出への対策を急いでください。 <4への政府回答> 拉致被害者御本人も御家族も御高齢となる中、拉致問題の解決には一刻の猶予もありません。引き続き、米国などとも緊密に連携しながら、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現するべく、全力を尽くしてまいります。 —————————————— <要請項目5> 菅総理大臣と加藤官房長官の声を北朝鮮に囚われている拉致被害者に直接届けてください。 そのためには、確実に北朝鮮国内へ届いている電波である特定失踪者問題調査会の短波放送「しおかぜ」で流す必要があります。この放送が妨害電波を受けていることは確実に北朝鮮に届いている証拠で、先方は国民に聞かせたくないから妨害してくるわけあり、妨害電波の枠を超えた北朝鮮国内ではしっかりと受信できているはずで、調査会では妨害の隙を縫って熱心に送信し続けています。 何十年と囚われている拉致被害者が生きる希望を失わないためにも、是非日本国の内閣総理大臣と内閣官房長官の力強いメッセージを届けて下さい。 <5への政府回答> 北朝鮮内への情報伝達手段が限られている中、北朝鮮に囚われている拉致被害者等の日本人、北朝鮮市民や北朝鮮当局に対し、日本政府や日本国民、更には国際社会からのメッセージを伝達する手段として、今後とも、北朝鮮向けラジオ放送の充実・強化について、積極的に取り組んでまいります。 このような観点から、直近では、本年11月16日、「ふるさとの風」「しおかぜ」放送用の加藤官房長官兼拉致問題担当大臣によるラジオメッセージを収録し、11月下旬にそれぞれ放送しました。 (了)