from-the-editorial-department編集部より

我、判事の職にあり、ヤミ買い出来ず

コロナウイルスの最中に、かけ麻雀をした検事長がいたが、戦後の混乱のなか、闇市の闇米を拒否。食糧管理法に沿った配給食糧のみを食べ続け、栄養失調で餓死した裁判官もいる。
山口良忠氏だ。
 
「食糧統制に死の抗議 われ判事の職にあり ヤミ買い出來ず 日記に殘す悲壯な決意」と第一報を報じた朝日新聞にある。
 
以下に遺書を掲げるが、昨今の政界における疑惑が続く中、政治家は心して読むべきではないか。検事もそうだ。
 
[遺書]
食糧統制法は惡法だ、しかし法律としてある以上、國民は絶対にこれに服從せなければならない、自分はどれほど苦くともヤミの買出なんかは絶対にやらない、從つてこれを犯す奴は断固として処断する
自分は平常ソクラテスが惡法だとは知りつゝもその法律のために潔く刑に服した精神に敬服している、今日法治國の國民には特にこの精神が必要だ、自分はソクラテスならねど食糧統制法の下喜んで餓死するつもりだ敢然ヤミと闘つて餓死するのだ被告の大部分は前科者ばかりだ自分等の心に一まつの曇がありどうして思い切つた正しい裁判が出来やうか、弁護士連から今日の判検事諸公にしてもほとんどが皆ヤミの生活をされているではないかとしばしばつき込まれたではないか、自分はそれを聞かされた時には心の中で実際泣いたのだ、公平なるべき司直の血潮にも濁りが入つたなと。
 
願わくは天下にヤミを撲滅するためによろこんでギセイとなることを辞せない同志の判官諸公があつて速かに九千万國民を餓死線上から救い出したいものだ家内も当初は察してくれなかつた、それもそのはずだ、六つと三つのがん是もない子をもつ母親として「腹がへつた、何かくれないか」と要求される度に全く断腸の思いをし、夫が判官の精神を打忘れること、世のたとえに言ふ「親の心は盲目だ」でついアメ一本でもと思つたのも実に無理もなかつたであらう。
 
『朝日新聞』昭和22年11月4日付西部本社朝刊2面より引用。