contribution寄稿・コラム
「海洋、即ち、我が国存立の基盤を守れ」 西村眞悟
明治九年、若き二十六歳の明治天皇は、最新鋭の鉄鋼汽船「明治丸」(1235トン、11ノット)で、北海道と東北を巡幸され、同年七月二十日に東京湾内の横浜港に帰着された。
戦前は、この巡幸から帰着された七月二十日を「海の記念日」としていたが、今は「海の恩恵に感謝し海洋国日本の繁栄を願う」ための国民の祝日である「海の日」としている。
天皇が我が国内を船で巡幸されたということは、我が国が海に浮かぶ海洋国家であることを象徴的にしめしているからだ。とはいえ現在、この七月二十日の国民の祝日の理由となった「歴史的記憶」よりも「休日」であることが優先されて(ハッピーマンデー制度)、本年は三連休を造るために七月十五日の月曜日が「海の日」となった。そして、この歴史的記憶よりも休日を優先する現在の風潮に由来するかのように、この度の「海の日」の直前に、海洋国家である我が国の存立に関わる警戒すべき動きが顕在化したにも拘わらず、我が国政は反応していない。そこで、二つの重大なことを指摘して諸兄姉の関心を促したい。
まず、六月に大阪で行われたG20において、中共の習近平主席は、中華の覇権を世界に拡大するという野望を露骨に表明した。では、中共の東の太平洋における覇権拡大とは何か。これこそ我が国の存立に関わることではないか。即ち、海洋国家である日本は、中共の海の「一帯一路」とは何か見極め、我が国の存立を確保する為に重大な関心を抱くべきだ。
中共は既に第一次列島線とか第二次列島線という拡大戦略概念を露骨に表明している。そして、我が国の領土である尖閣諸島を奪いにきているとともに、南シナ海を「中共の海」とする軍事拠点を国際法を露骨に無視して現実に造っている。
その上で、中共の海の「一帯一路」とは、太平洋の十四の島嶼国家を借金漬けにしてその港湾を召し上げ、そこを海軍基地として太平洋を東進し南米大陸まで勢力を伸ばすことなのだ。このことは、第一次列島線どころか第二次列島線も突破し、我が国を取り巻く海域を、航行の自由な海ではなく「中共の海」にすることに他ならない。
習近平主席は、我が国の大阪で、我が国の「海の日」の直前に、露骨にこの我が国の存立を無視した海洋制覇の野望を表明した訳だ。しかるに、我が国内閣は、中共の「一帯一路」とは、ユーラシアの遙か西の砂漠の開発に関することと思い込んでいるかのように、危険な覇権拡大戦略である「一帯一路」への理解を示している。憂慮に堪えない。
次に、我が国は、中東のホルムズ海峡からインド洋を経てマラッカ海峡やロンボク海峡を抜けて南シナ海、バシー海峡、東シナ海から我が国に至る長大なシーレーンによってエネルギーの大半を供給されて存立している。我が国の死活的に重要なシーレーンだ。しかるに、このシーレーンの西の入り口であるホルムズ海峡の航行が脅かされ我が国に向かうタンカーも攻撃されている。
そこで、アメリカのトランプ大統領は、アメリカだけがホルムズ海峡を守るのではなく、多国間の有志連合で海峡の航行の自由と安全を守ろうと提唱した。
しかし、このアメリカの提唱に対して、我が国の反応は誠に鈍い。「海洋国日本の繁栄を願う」ための「海の日」を迎えながら、海洋国日本の存立に関わる事態に対し他人事のように無関心を装うとは何事か。アメリカに言われるまでもなく、我が国の内閣は、如何にしてこの長大なシーレーンの航行の自由と安全を守り、以て、我が国の存立を確保する為に、主体的に何を為すべきか国民に公表すべきではないか。同時に、参議院選挙中であるからこそ、アメリカの提唱する有志連合に主体的に参加する旨、表明すべきである。
さらに、従来の、中共を刺激しないという事なかれ主義の惰性をキッパリと捨て、次の施策を実施すべきだ。
その象徴的な第一歩は、総理大臣の靖国神社への参拝、及び、尖閣諸島魚釣島の頂上(海抜約三百㍍)に、灯台を設置し、同島にミサイル基地を設置し、ヘリポートを増設し、港湾設備を造成し、自衛官を常駐させることだ。そして、陸海空自衛隊を、島嶼防衛、広大なシーレーン防衛を重視したタイプに再建・再編しなければならない。その為に、空母機動部隊の創設、潜水艦戦能力の増強、陸上自衛隊に強襲揚陸艦の配備、航空自衛隊に爆撃機の配備は最小限必要である。
以上、参議院選挙における最重要な国家防衛に関心を示さない各党の主張の低次元さと、「海の日」に顕れた、海洋国家の死活的課題に対する無関心を憂い、提言する次第だ。