contribution寄稿・コラム

講演会【自由民主主義を破壊する文在寅政権の実態】   文責 三浦小太郎(評論家)

4月20日、東京市ヶ谷の会議室にて、「自由民主主義を破壊する文在寅政権の実態」と題して、高在雲氏(アジアの自由を守る日韓会事務局長)の講演会が開催されました。
 
 高氏は、80年代、90年代の韓国学生運動の体験者でもあり、自らの実体験を通じて、韓国左翼勢力と文在寅政権の問題点について深い分析と考察をされました。
 
 まず、高氏は1920・30年代のイタリアの共産主義者、アントニオ・グラムシの「陣地戦」という概念を紹介、このグラムシの思想と戦略に、現在の文在寅政権の本質はすべて根差していると述べました。グラムシは、先進国では労働者が蜂起して革命を起こすことは難しく、革命家たちは、行政、立法部に浸透してそこに「陣地」「基地」を建設し、そこを中心として社会主義革命に向かうヘゲモニーを拡散させるべきだと説きました。
 
 特に、労組、学会、言論界、文化芸術界、宗教界などを通じて、社会全体に浸透し、そこで資本主義を否定する理念を拡散させていくことによって、イデオロギー面で社会の主導権を握る、いわゆる「文化共産主義」を展開することがグラムシの戦略であり、韓国はこれが完ぺきなまでに成功してしまったと高氏は指摘しました。
 
 とりわけ韓国において、この「陣地戦」が築かれたのは1980年から90年にかけての、いわゆる韓国民主化運動が最盛期を迎えた時代であり、その象徴が「ハンギョレ新聞」という左派メディアだと高氏は述べました。
 
 そして、北朝鮮による対南革命政策と、それに従属する文在寅政権の本質とは、まず「民族」という概念を持ち出し、韓国をアメリカの植民地であるとみなすこと、韓国の建国以来の保守政権を全否定し、それを打倒することが民族解放の闘いであるという宣伝を行うことだと高氏は指摘し、自分自身も、左翼学生運動に参加していた時代は本気でそう信じていたと述べました。
 
 また、今回の朴槿恵大統領弾劾は完全に北主導であり、2016年3月、4月の段階で、既に北の労働党は労働新聞で朴槿恵弾劾を訴え、韓国内部の従北派に指令を出していた、その結果起きたロウソク民衆クーデター(高氏はあの運動は民衆の運動ではなく左翼クーデターだと述べました)によって成立した文在寅政権は、完全に韓国の自由民主主義の破壊を目指していると指摘しました。
 
 そして、かってレーニンが主導したボルシェビキ革命では、ロシアの総人口の中で、共産党は本当にごく一部に過ぎなかったけれど、ある種のクーデターを成功させて政権を奪取した、実は革命というのは多数の民衆ではなく少数の組織化された人々によって行われる。それと同様に、韓国では自覚的な左翼の活動家が、民主労組という組合を結成、労働運動全体を主導してしまっていると、かっての共産主義革命の戦略が韓国で成功していることを再確認しました。さらに高氏は、その民主労組は、いまや文在寅大統領寄りもはるかに強い指導力を持っており、文政権の政策が生ぬるいと言って文批判も行い、同時に、テレビメデイアなども支配し、韓国の言論、報道をゆがめていると述べました。
 
 この韓国における共産主義運動は、金日成主義、民族主義的な左派であるNL派と、より正統なマルクス主義を信奉するPD派、そして少数のトロツキスト派によるものだったが、前者二派の間では強烈なヘゲモニー争いがおこり、結果的に勝利したのはNL派で、彼らの中心層は徹底した金日成・正日崇拝者たちだった、そして、韓国を現在支配しているのはこのNL派系列の運動家たちであり、また彼らが現在の市民運動のほとんどを掌握していると高氏は述べました。
 
 そして、文在寅政権を支える秘書室と大統領首席室のメンバーは、その65%がNL派であり、その象徴である秘書室長の任鐘ソクは典型的な北朝鮮崇拝者であり、今彼らが行おうとしているのは、三権分立の否定と、憲法を自由に改正することも、国会ではなく彼らの機関だけで進めようとしていると高氏は批判、韓国の民主主義の危機を訴えました。
 
 北朝鮮は様々な対南赤化政策を取ってきたが、その中でも重要なのは韓国国軍の弱体化であり、2018年以後、軍事境界線での軍事演習の中止、軍事境界線上空の飛行禁止区域設定、武装地帯での監視養成所撤収、西海(ソヘ)海上で平和水域と、試験的な共同漁労区域設定などが行われた、軍事演習を行わない軍隊は血の通わない肉体のようなもので無力であり、北に比べ圧倒的に優位の空軍の飛行を韓国側が中止するなどは自ら有利な武器を捨てるようなもので、これでは北に対する武装解除に等しい、また、兵士たちの柔弱化、また軍幹部の「行政公務員化」(軍人国防意識の後退)なども進んでおり、絶対に秘密にしておかねばならない軍事基地の中ですら、兵士のスマホ使用が認められてしまっている、と、高氏は韓国軍の現状を指摘しました。
 
 さらに、サーバーを使った情報戦も行われており、朴槿恵大統領弾劾は、まさに、ねつ造されたデマによるネットでの印象操作により始まったものであること、また、保守派が今自分たちの言論の場として訴えているインターネット上でも、グーグルやユーチューブの保守系のチャンネルを、左派のネットが徹底的に削除要請を出すなどして弾圧に向かっており、グーグルなどがその要請を拒否すると税務調査が厳しく入るなどの事態も起きていると、自由であるべきネット言論も危機に瀕していると高氏は述べました。
 
 そして、もっと恐ろしいのは政治のポピュリズム化であり、国民に受け入れられやすい、しかし実現の見込みのない政策が打ち出されている、例えば、韓国の雇用予算を増やすというが、実質的には公務員を17万人も増やそうという、国家経済が成り立たないような政策が打ち出され、また、徹底したバラマキ政策、例えば大学を出ても就職の機会のない若者に無原則に支援金を出すなど、国家全体ではなく、単に支持者を増やすためだけのスローガンが掲げられている。同時に、大企業を敵視し、その経営に国家が加担、事実上の「国営化」が進められていると高氏は指摘しました。
 
 文在寅大統領の政治的立場は、あえて言えば「韓国」という国を認めないということである。国旗もぞんざいに扱い、外交の場においても国旗に敬意を払わない、韓国という国も、その民主主義も破壊しようとしているのが今の文在寅大統領だと高氏は結論付けました。しかし、このような政権が韓国で誕生してしまい、今も一定の支持を受けているのは、韓国保守派にも大きな責任がある、韓国保守には、真の哲学も、国家意識も、自分たちが主権者として国家を守り民主主義を守るという信念も欠けていた。これが共産主義者に付け込まれてしまったことを、私たちは忘れてはならないとして、高氏は講演を結びました。(文責:三浦小太郎)