cc「中朝国境の旅」

【連載第28回 中朝国境の旅】  ―駅を撮る― 野牧雅子(宮塚コリア研究所研究員)

 北朝鮮の研究家である夫、宮塚利雄に同行する私の役目の一番大きいものは、写真撮影であった。中国の景色よりも、鴨緑江・豆満江の向こう側にある北朝鮮の景色を撮ることが重要な目的であった。北朝鮮の景色は、建物、山の斜面にでかでかと掲げてあるスローガン、街中の金日成の肖像画、行きかう人々、など、何を撮っても重要な情報であり、帰国の飛行機の中にいる時から、夫は家でコンピューターを覗くのを楽しみにして、あの時撮った写真には、山の急斜面に張り付いている羊が何匹写っているだろうか、川沿いで歩いていた男達は、おそらく労働党幹部らしいが、ちゃんと写っているだろうか、など、話していた。
 
彼が追うものは、通行する車、自転車、行商人が運ぶ物資、人々の服装、服の柄、山の木々の様子、軍人や軍関係の建物、など、様々であったが、列車や線路、駅舎とその周りの風景をとりわけ執念深く追っていたように思う。
 

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