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【論説】線引きのない米中対立の危険性

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歯止めの利かない米中貿易戦争を巡って、首脳会談を開催することを米国側が打診していることが明らかになった。11月末にアルゼンチンで行われるG20サミットの前後に行われる可能性がある。これにより、両大国の対立は解消するのだろうか。
 
トランプ大統領は不公正な貿易慣行が正されない場合は追加制裁を行うことを示唆しており、着地点が見いだせないなかで中国側がどう対応するのか注目される。
 
米中関係の険悪化は貿易問題に留まらず、南シナ海であわや軍事衝突かという事態になっている。9月30日、米イージス駆逐艦が「航行の自由」作戦に基づき、南沙(英語名スプラトリー)諸島を航行中、中国駆逐艦が警告を発しながら45ヤード(約41メートル)以内に急接近した。米海軍が舵を切らなければ衝突不可避という状況だったという。また、米空軍も9月下旬、戦略爆撃機を南シナ海に派遣し圧力を強めている。こうした緊張関係を示すように、マティス国防長官は10月中で調整していた中国訪問を取りやめた。
 
新冷戦ともいえる米中対立は、米ソ冷戦に比べて一時的であるとの楽観的な見方がまだまだ強い。だが、貿易問題で折り合っても、為替操作や知的財産、領海問題、民族弾圧、不当拘束など米国が問題視する中国の政策は多岐にわたる。とりわけ、顕著になっている国内での不透明な拘束事案は、自由主義陣営の盟主たる米国には看過できないレベルになっている。
 
中国の電子商取引大手アリババ・グループの馬雲(ジャック・マー)会長も9月、「米中貿易摩擦は今後20年続く可能性に備える必要がある」と述べている。
 
米ソ冷戦には、明確な線引きがあった。鉄のカーテンや西側と東側の陣営がくっきりとしていた。だが、米中対立は明確なイデオロギー対決ではなく、新たな覇権国になろうとルール変更や違反を繰り返す中国を米国が潰そうとする領土や利益の衝突であり、第二次世界大戦前の帝国主義時代のような、明確な線引きのない争いである。そこに米国との対立が鮮明になってきたロシアやイラン、シリア、トルコなどの利害も絡む。
 
南シナ海での“ニアミス”も、起こるべくして起こったといえる。覇権を奪い合う争いに着地点は見いだせない。今後20年の摩擦で済めばいいが、線引きのない対決は、人類が二度も経験した力と力のぶつかり合いで決着をつける最悪のシナリオしか、歴史からは学び取れない。
 
歴史に学び「三度目の正直」となるか、歴史を繰り返す「二度あることは三度ある」となるか。人類の英知が試される、冷戦よりも危険な新冷戦と見た方がいい。