contribution寄稿・コラム

一帯一路の嘘と罠   西村眞悟

 我が国の海を隔てた西の東アジア情勢は、百五十年前の明治維新後に我が国が対面した状況に似てきている。そこには同じ、北にロシア、南に中国(清)そして半島に朝鮮があるが、似ているのはロシアと中国が日本に対しては「連携」しており、そのロシアと中国の間を振り子のように動く朝鮮が「反日・侮日」姿勢を露骨にしていることだ。従って、現在の我が国は、明治の我が国が直面した歴史に学んで教訓を得なければならない。
 
 こう言うと、安倍総理とロシアのプーチン大統領は、「シンゾウ」、「ウラジーミル」と呼び合う親密さだと安心している方から反論があるかもしれないから言っておくが、ソ連のKGBでのし上がってきた共産主義エリートのプーチンを見くびってはいけない。現在、プーチンが東方で笑顔なのは、西方のシリアやウクライナで手がいっぱいで西側から制裁を受けているので、東方で我が国から資金を得ようとして笑顔でいるにすぎない。
 
 中国は、南シナ海を中国の領海であると強弁し、東シナ海の尖閣諸島を中国のものだと執拗に主張し海軍の軍艦(巡視船)を我が領海に侵入させている。他方、北ではロシアのプーチンが、我が国の総理を「シンゾウ」と呼びながら、平然と我が国領土である国後・択捉島にミサイル基地を造り軍事演習を実施している。その上で、ロシアと中国の両海軍は、南シナ海で合同軍事演習を実施しているのだ。さらに言うなら、平成二十八年度の我が航空自衛隊機のスクランブル発進は、冷戦期の密度を遙かに超えて1168回におよび、対ロシア軍機には301回、対中国軍機には851回である。これでは、ロシアと中国は、北と南から連携して軍事的な対日圧力を強めていると言う以外にないではないか。
 
 さて、十九世紀後半、国際社会でロシアと中国は如何に評価されていたのか、それを示す次の絶好の言葉がある。それは、「ロシア人は約束を破るために約束をする。中国人はそもそもはじめから約束は守らねばならないとは思っていない。」これは、つまり、ロシア人は裏切ることを屁とも思っていない、中国人は嘘を日常的につくということだ。そして、ロシアと中国は、現在もこの通りだ。
 
 以上のとこを念頭において、かつて中ロがなした痛恨の対日連携を振り返り、現在の習近平主席が推進する「一帯一路」について述べたい。それは、明治二十八年の三国干渉と翌二十九年の露清密約だ。教科書では、三国干渉しか教えないが、これは露清密約と不可分一体である。
 
 ロシアは、三国干渉で、日清戦争の下関講和条約で我が国が獲得した遼東半島を、清の李鴻章の思惑通り、清に返還させた。その翌年、モスクワに来た李鴻章に、ロシアの蔵相ウイッテは、対日攻守同盟を持ちかけ、李鴻章はそれに同意した上で、ロシアから多額の賄賂を貰って満州をロシアに売却する。つまり、李鴻章は、満州に銀行を設立して鉄道を施設する権利をロシアに与えた。これが日露戦争と満州事変の導火線となる。我が国は、この密約を一九二二年のワシントン会議で始めて知った。そのために、日露戦争で大量の血を流してロシア軍を追い払った満州を、清国に返してやったのだ。
 
 やはり、中ロ両国と接触をするとき、この中ロ連携による痛恨の歴史を思い起こすべきであろう。そして、ロシアのプーチン大統領が我が国の安倍総理に微笑みながら、習近平主席の仕掛けた対日戦勝利七十周年軍事パレードには平然と出席している状況の危険性を知るべきである。とはいえ、ここでは、清の李鴻章がロシアに満州を与えたやり方と、現在の「一帯一路」の相似性を指摘するに止める。ロシアは李鴻章から得た「銀行(融資)と鉄道(公共事業)」によって満州侵略を開始した。そして、まさに「一帯一路」は、中共による「融資と公共事業」による侵略なのだ。
 
 この度、マレーシアとパキスタンに続いてモルディブも、大統領選挙によって中共圏から離脱した。その大統領選挙の勝者のキャッチフレーズは、「中共の借金の罠に嵌まって中共の植民地になるな」であった。世界は、今や、習近平の「一帯一路」という「嘘(罠)」に気付き始めたのだ。よって、中共を訪問する安倍総理がしてはならない第一のことは、中共の嘘(罠)である「一帯一路」に賛意を表することだ。