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【論説】石破派から絶妙の一本釣り?老獪な安倍首相の人事
今回の改造内閣は、昨年11月の上川陽子法相の起用と同様に、安倍首相の老獪な人選が見られた。上川法相はオウム死刑囚の執行を命じ、歴代法相の中でも群を抜いた安定感と胆力で来春の改元前に法務省が抱えた大きな問題を解決した。
今回、石破派からの入閣はあるのか否かが注目される中、安倍首相は当選3回の山下貴司氏(53)を法相に起用した。
弁護士で元検察官。在ワシントン日本大使館では法律顧問を務め、日本政府を相手取って提起された従軍慰安婦訴訟や戦時捕虜訴訟では、連邦最高裁での勝訴を勝ち取った。
当選3回とはいえ、申し分ない経歴というだけでなく、改憲については国民投票で国民の意思を決めるべきだと主張し、「議員が国民投票の機会を奪ってはならない」と考える安倍首相と考え方が近い。
他派と同様に、石破派内でも入閣組が列を為す中で一足飛びの出世を果たしたことで、挙党体制で改憲機運を盛り上げようとする首相の意図が垣間見える。
首相は「総裁選での投票先や派閥を考慮せず、人物本位で選んだ」としているが、派閥の貢献度に応じた全体の均等人選を見れば、その言を信用することはできない。山下氏を起用することで、党内手続きや9条2項の明記にこだわる石破茂氏の憲法観をけん制し、石破派内の世代交代を意識させる効果もある。
小泉進次郎氏にも近い山下氏を引き込むことで、総裁選で石破氏に投じた小泉氏との距離を少しでも近づけて、石破―小泉ラインのような敵対勢力の結集を削ぎたい思惑も伺える。
第1次安倍政権では、赤城徳彦氏や松岡利勝氏など農水相の人選で支持率を急落させた安倍首相だけに、第2次安倍政権では反りが合わないはずの石破茂氏や二階俊博氏を党幹事長に配置するなど、敵を味方に引き込んだり敵を分断させたりする巧みな人事戦略で長期政権を実現している。