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日本はもっと関心を!中国の台湾海峡「新航空路」の一方的運用   台湾研究フォーラム会長 永山英樹

日本はもっと関心を!中国の台湾海峡「新航空路」の一方的運用
 
台湾研究フォーラム会長 永山英樹

 
■これも中国「侵略的野心」の産物
 
昨年十月の党大会閉幕後、第一列島線内側の支配権確立と、第二列島線までの海域への勢力伸長の野心を剥き出しにする中国。台湾周辺空域での軍用機の飛行訓練活発化はその一例だが、今問題になっている台湾海峡での民間航空路線の運用を巡る問題も、そうした悪しき野心の産物だ。
毎日新聞が一月二十三日の配信記事、「民間航空路線で台湾と対立」は次のように伝える。
 
―――台湾海峡の民間航空路線を巡り中国と台湾が対立している。中国が1月初旬から海峡の中間線付近を通過する新航路の運用を始めたのに対し、台湾は事前協議がなかったとして反発。
―――台湾当局は19日、中国の航空会社2社が春節(旧正月)の繁忙期に合わせ申請した中台間の176便の臨時運航を認めない対抗措置を発表した。中国は強く反発している。
―――中国は2015年1月、路線過密化を理由に、台湾海峡の中間線付近の中国側に新たに4航路を設定したと発表した。台湾は既存航路の安全が脅かされると抗議。その後、一部航路の運用で合意したが、その他の航路は運用の是非を事前協議すると申し合わせた。
―――ところが中国は今月4日、新たに4航路の運用を開始。台湾側は「一方的だ」と抗議し、運用の即時停止を求めていた。
 
■台湾の防空に対し多大な圧力
 
中国が一五年一月に設定を発表したという、この「台湾海峡の中間線付近の中国側に新たな4航路」とは何かだが、一つは台湾海峡を東西に二分する事実上の台中境界線である中間線の西側至近距離で並行するM503。最も近い地点でわずか四・二カイリ=七・八キロの距離。
そして浙江省東山、福建省福州、同アモイからM503とを繋ぐ、W121、W122、W123である。このw122とw123はそれぞれ馬祖、金門と台湾本島を結ぶ航空路線と近接して危険が高い。前者は馬祖のターミナルコントロールエリアから最短で二・八カイリ(三・二キロ)、後者は金門のそれから同じく一・一カイリ(二キロ)の距離である。
 
そしてそればかりではなくこの四つ航空路は、台湾にとっては防空上においても甚だ危険なのである。
現在台湾側の反対により、台湾海峡を横切る台中間の航空路は設定されていない。それをしてしまえば中国軍用機、あるいは部隊を乗せた偽装旅客機がそれを利用して台湾へ突入する可能性があるからだが、いまや中国はそれを中間線まで設定しているのである。
 
かつて陳水扁政権は、こうした航空路の設定を阻止してことがある。米国に依頼して圧力をかけてもらったのだ。ところが中国は一五年になり、その設定を強行したわけだ。
こうした措置を採るには近隣国と事前協議を行うのが国際的ルールだが、中国は台湾が「国」ではなく自国の一部だなどと主張しながらそれを無視した。
 
そこで台湾側は政府、軍から民間に至るまでが「一方的だ」などとこれを非難。
かくて中国は当時の馬英九政権と協議を行い、w121、W122、W123の不使用、M503の西側への六カイリ移動、及び南下のみの使用(航空機は同高度の対抗機があれば右へ回避。北上の場合、中間線の台湾側に入る恐れがある)との妥協案を提示、対中弱腰の同政権にそれを呑ませたのだった。
 
当時「路線過密化を理由に」していた中国だったが、実際に運用が始まると、「過密化」は深刻ではないことが判明した。
また当時中国側は、M503の運用後、軍用機の活動区域を西側へ縮小すると説明したが、それも実行されていない。
 
■黙々と台湾政府に揺さぶりかける
 
そして今回毎日が報じたように中国は、「今月4日、新たに4航路の運用を開始」したのである。つまりW航路の使用とM503 北上を解禁したのだ。
やはりこれも事前協議なしの一方的措置だった。台湾側は金門と馬祖の管制塔が当日午前八時ごろ、アモイ、福州から通知を受け、それで初めて知ったという。
 
そこで台湾政府は十九日、「中国の航空会社2社が春節(旧正月)の繁忙期に合わせ申請した中台間の176便の臨時運航を認めない対抗措置を発表した」のである。そして毎日は、これに「中国は強く反発している」というのだが、それではいかに「反発」しているか。
 
すでに中国の国務院台湾事務弁公室(国台弁)は「航空路の開設と運用は大陸(中国)の内部事務。一方的な開通だというような問題は全く存在しない」とし、台湾側の反撥など歯牙にも掛けないという顔を見せていたが・・・。
 
このように特段台湾に対し「反発」姿勢は見せていないのだ。それより台湾の対抗は最初から織り込み済みで、淡々と計画通りに揺さぶりを掛け、現在の蔡英文政権を牽制しようとしているように見える。
 
■台湾の経済界を操縦して民進党政権を牽制
 
台湾側の「対抗措置」に関し、産経新聞は二十五日、「台湾が春節の増便『当面不許可』 中国の航路使用に対抗措置を示唆」と題する記事でこう伝えた。
 
―――交通部(国土交通省に相当)民用航空局は19日、2月16日の春節前後1カ月に計約600便で合意していた臨時増便のうち、航路の使用を始めた中国の東方航空とアモイ航空の計176便を当面、許可しない方針を示した。実際に許可が下りない場合、約5万人が影響を受ける。
―――ただ、影響を受けるのは中国大陸で働く台湾人の帰省客が中心で、批判が噴出。蔡政権内からは「(中国側に)協議を求める便宜的な策略だ」(大陸委員会幹部)との不協和音も漏れる。中国当局は目下、対抗措置には反応しておらず、神経戦が続いている。
 
「批判が噴出」というのは事実のようだ。中でも中国駐在の台湾企業関係者で作る「台企聯」の王屏生会長の「ビジネスマンの人権を蹂躙するな」といった強烈な政府批判のコメントなどは大きく報道されている。
もっとも台企聯とは「全国台湾同胞投資企業聯誼会」の略称で、この名を見ればわかるように、実はこれは中国政府の御用団体。国台弁の直接指導を受けた統一戦線工作の道具として活用されている。
 
このようにビジネスマンに自国批判を展開させ、親中メディアや国民党にもそれに呼応させ、台湾国内の分断を図っているというのが今の状況である。「以商囲政」(経済界を操縦して政府を牽制、包囲する)という、いつもながらの策略だ。
もっとも、産経の所謂「約5万人が影響を受ける」というのはデマらしい。
 
■日本政府も「航空安全」の観点からだけではなく
 
なぜなら、行政院報道官は二十四日、「今年すでに三百十三便が許可を受けている。昨年同時期に比べ一便少なくなくなっただけ」であることを明らかにし、「正月は平安にお戻りになれる」と強調しているのだ。
 
世論調査によれば、七割の人が中国の措置に反対し、六割が「対抗措置」を支持しており、いまのところ中国の分断という名の揺さぶり工作は、まだ成果を上げていない模様である。
もっとも、こうした対抗措置は東方航空とアモイ航空に打撃は与えても、中国の拡張主義には何の痛痒もない。そこで台湾政府は世界各国に対し、中国の危険な振る舞いに関心を向けるように呼びかけている。
 
こうした中、米国務省はすでに現地時間四日に「台湾海峡の現状を一方的に改変するいかなる動きにも反対する。北京と台北が尊厳と尊重という基礎の上で建設的な対話をするよう奨励する」とコメントしている。
日本でも外務省報道官が二十四日、「我が国は従来から民間航空機の安全の確保,これは何よりも重要との立場。そうした観点から当事者間の対話を通じて,本件が適切に解決されることを期待している」と述べた。
 
日本はあくまで「航空安全」の立場からの発言だったようだが、これからは「台湾海峡の現状」という言葉を使った米国のように、安全保障の観点も踏まえながら懸念表明を行ったらどうだろう。
何しろ台湾の安全は日本の安全には死活的に関わっているのだから、そのようにして中国には抗議を行い、そして台湾、国際社会、さらには自国民に対しては、いかに現在の情勢が深刻であるかをもっと明確に伝えなくてはならない。
 
いずれにせよ日本人は、外務省が「当事者間の対話を」と言ったからといって、今回の台中対立の問題を両国だけの問題などと考え、無関心でいてはならず、中国のこうした動向にはもっと目を向けるべきだろう。
いまや東支那海、南支那海だけでなく台湾海峡でも支配権を固め、やがては第一列島以西を内海とし、台湾そして日本の生存をも大いに脅かそうと躍起になっているのだから。