pet「マリの喫茶室」
マリの喫茶室(13) ドクターⅩ
マリの喫茶室(13) ドクターⅩ
【マリ手術を決意する】
9月にウサギのマリの脇腹に腫瘍ができ、切除するかどうかさんざん迷ったが、全身麻酔のリスクが怖くて、とりあえず様子を見ることとした。(このことは以前このコーナーで紹介した。)
あれから3か月、だんだん腫瘍が大きくなり、一部化膿しているように見えたので、手術を決心した。
心を決めたら、時間を置くと迷いが生じるので、その場でウサギ先生に電話し、1週間後に予約した。
【全身麻酔】
1週間、心が揺れたが、もう決心したのだからと何度も自分に言い聞かせた。
手術の前日は、マリの丸い背中を繰り返しなぜなぜした。もしかたら、今生の別れになるかもしれないと思うと、マリをいつまでも撫でていたかった。
何も知らないマリは、いつものように、ペレットをパクパク食べていた。
そして、翌朝、電車を乗り継ぎ約1時間かけて、ウサギ先生のところに行った。
マリはいつものとおり、おとなしく、診察台の上にちんまり座った。
ウサギ先生は、まず耳の毛をバリカンで剃り、耳から採血した。その場で血液検査をし、全身麻酔が可能かどうか確認した。
そして、いよいよ全身麻酔の注射。マリは5分もたたないうちに深い眠りに落ちた。いつも眠りの浅いウサギがこんなに深く眠り込むのを初めて見た。
全身脱力し、敷物のように平べったくなり、横たわった。横腹が上下し呼吸していることが、唯一生きている証である。それ以外は死んだようだった。麻酔の力を目の当たりにした。
麻酔がかかっている間は、夢も見ず、空白の時間だと聞いた。きっと死ぬということはこういうことではないか、空白が永遠に続くのではないか、と思った。
【手術】
ウサギ先生は、さらに患部に部分麻酔をすると、腫瘍のまわりの毛をバリカンで刈り込んだ。腫瘍がまるで小山みたいに浮き出てきた。
そして、手早くマリの身体に青いシートをかけると、電気メスで腫瘍だけ切り取った。あっという間だった。血も出なかった。
その後、縫合。手術は約7分で終わった。
その鮮やかな手つきはドクターXのようだ。
手術を飼い主に見せてくれる獣医は少ないと思う。
近所の獣医は、ちょっとした処置でも、
「待合室で待っていてください。」
と飼い主を追い出す。
飼い主が見ている前で処置をし、しかも手術まで見学させてくれるのは、ウサギ先生が相当腕に自信があるからだと思う。
腕に覚えあり。
実際、遠方からもやってくる患者も多い。
【麻酔から回復】
1時間で目が覚めると聞いたが、マリは麻酔が深くかかり、回復に時間がかかった。
だんだん不安になり、「マリちゃん起きて」と何度も呼びかけた。
1時間10分くらいしてから、マリの虚ろな目が時々瞬きし、鼻が断続的にぴくぴくした。脱力していた足に徐々に力が戻ってきた。
ようやく麻酔から目覚めつつあるようだ。
まだ、立ち上がることはできない。相変わらず、虚ろな眼差しのまま、敷物のように横たわったままだったが、もう危険はない。あとは完全に麻酔から覚めるのを待つだけ。
手術は成功したのである。
マリは念のため1日入院し、翌日退院することに。
【マリがいない夜】
その晩、マリがいない家は、ぽっかり穴があいたようだった。
洗濯物をたたむのも邪魔されない、マリにご飯をあげたりケージをきれいにする必要もない。でも、マリの気配がない。マリがいない寂しさに押しつぶされそうになる。
もしマリが死んだら、とても耐えられないだろうなと思った。マリがいないことがこんなに辛いなんて。たった一晩なのに。マリの存在の大きさ、マリがいる日常の幸せを再認識した。
【マリ家に戻る】
翌朝、マリは元気に退院し、また「うさぎがいる生活」に戻れた。手間もお金もかかるけれど、やはりマリはかけがいのない存在である。
迷いに迷った手術だったが、無事終わってよかった。
傷口は毛がなく、縫合した後が痛々しい。毛が生えそろうにはあと数か月かかるだろう。
でも手術をしてよかったと思う。腫瘍もきれいに切除できた。良性なので、再発の危険もない。ドクターⅩのようなウサギ先生に感謝である。