columnコラム
佐波優子・私のライフスタイル2
やまと新聞コラム識者に聞く
―土屋 編集 先月から掲載が始まりました佐波さんの受験体験記。かなり、反響がありましたよ。
佐波:そうなんですか。それは嬉しいです。
―土屋 「佐波さんの受験、奇跡的です。勉強のやり方、参考になりました」「すごい努力です」「びっくりしました」「社会人になって勉強するのは決意がいります」「僕はだめだろうな」…など様々な意見をいただきました。アクセス数も多く、多くの人が関心を持っているのだと感じます。
さて前回は、佐波さんが受験をしたきっかけを聞きましたね。英語の偏差値28からの慶應受験は過酷なものだったと思います。では今回は、いきなりですが受験の本題に入りましょう。佐波さんが大学受験勉強をした中で、一成績アップにつながった勉強方法はなんですか?
佐波:はい。一番成績につながった勉強方法は、「忘れることにショックを受けず、何回も繰り返すこと」でした。
―土屋 ほう。確かに大切です。
佐波 どんな時に繰り返し勉強することが有効なのか、今回は受験に欠かせない英文法をテーマにお話しします。私が英文法を勉強しているとき、いつもつまずいたのが動詞の使い方でした。日本語でもそうですが、英語の動詞も、動詞の後ろにさらに補助的な動詞がくるんですよね。「今日中に手紙を”投函する”ことを”忘れない”ようにしよう」とか。英語ではそのルールが結構厳しいんですよ。例えば、stopという動詞。日本語では動作をやめるときに使いますが、stopの後にどんな形の動詞が来るかで文の意味が変わってしまうんです。2つの例文を比べてみてください。
1、 She stopped talking to him.
2、 She stopped to talk to him.
この二つの文ってすごく似てません?。
―土屋 違いがよくわからないくらい似てますね。
佐波 そう。すごく似ているのに、日本語に訳してみると全然違うんです。最初の文は「彼女は彼と話すのを止めた」となり、後の文は「彼女は彼と話すために立ち止まった」となる。
―土屋 へえ、彼女と彼が話すという文章なのに、中身が全然違いますね。最初のはもう今からは話さないよっていう文だし、二番目のはこれから会話が始まってく感じ。
佐波 そうなんです。話が終わったのか、これから話し始めるのか2つの文は異なっている。これは、stopという動詞の後にto talkという不定詞とtalkingという現在分詞のどちらかを使うかによって大きく変わるんです。
―土屋 同じstopでも、後にどんな形の動詞が来るかで動作をやめるのか、立ち止まるのかに分かれると。ややこしいですね。
佐波 そうなんです。こんな風に、後ろにto不定詞とが来るのかing形が来るかで意味が変わってしまう動詞がある。
今の導入を踏まえて、ここから本番です。今話したようにすべての動詞が「後ろにto不定詞とが来るのかing形が来るかで意味が変わってしまう動詞」だけだったら、それぞれの意味の違いを覚えておけば楽だった。でも動詞は他にも「後ろにto不定詞しか取れない動詞」と「動名詞ing形しか取れない動詞」があるんです。
―土屋 主に3パターンあるんですね。
佐波 はい。受験ではこの
1 後ろにto不定詞とが来るのかing形が来るかで意味が変わってしまう動詞(stop、forget、rememberなど)
2 後ろにto不定詞しか取れない動詞(agree、decideなど)
3 動名詞ing形しか取れない動詞(help、enjoyなど)
の3パターンの動詞を見分けなければならない問題がたくさん出てくるんです。
例えば「テニスを楽しむ」という日本語は英語で”enjoy playing tennis “と表しますが、入試の問題では”enjoy”の後に” playing tennis”と” to play tennis”のどちらが来るか?と問われ、選ぶわけです。
―土屋 ああ、ありましたね。覚え分けるのが面倒臭かったです。
佐波 私も最初はちんぷんかんぷんでした。ここは大事なところだからと、予備校の授業でも一学期の早い時期から行われるんですね。講師の先生が黒板をいっぱいに使って丁寧に解説してくれるんですよ。授業は奇跡のようで、驚くほど理解できる。これが、プロの授業なんだと驚くほどでした。
―土屋 神業のような授業なんでしょうね。
佐波 頭の中の脳みそに直接知識を書き込まれているみたいに吸収できました。でもどんなに授業が素晴らしくても、人って忘れてしまうんですよね。私が通っていた予備校は、普通の講義の授業と並行して自分でテストを解いて先生に丸つけと解説をしてもらう授業がありました。そこでその神業授業の一ヶ月後、先ほどのstop、agree、helpのような動詞が並んでいて「stopの後に来るのはto不定詞ですか、動名詞ing形ですか、両方使えますか?」という問題を解いたんですね。すると授業であんなに感動したのに、もう忘れてしまっているんです。解法もすっかり忘れてて、というより何について聞かれている問題なのかも良く分からなくなっていたんです。それでテストはほぼゼロ点ですよ。
―土屋 まずいじゃないですか。
佐波 駄目ですよね。で、先生が一対一で向かい合ってその場で解説してくれるんです。
「動詞にはto不定詞しかつけられるないものと、動名詞ing形しかつけられないものと両方つけられるものがあるんですよ」と。説明されて初めて、ああそうだったと1ヶ月前の授業を思い出す有様です。まさか忘れてしまうなんてと自分の記憶力のなさに、愕然としました。
―土屋 あんなに覚えたのにって思いますもんね。それで?
佐波 はい。それでまた説明してもらって完璧に覚えて。なのに一ヶ月後に同じテストを解くと、解けないんですよ。やっぱり忘れちゃっている。
―土屋 それは大変ですね。どうやって克服したんですか?
佐波 何回も同じテストを解いて、同じ先生に同じ解説をしてもらったんです。すると、4回目位に、おぼろげながら「あ、これは動詞の後にtoが来るかingが来るか両方OKかを見分けるテストだ」と、問題が認識できるようになってきたんです。まあ認識できただけで解けなかったんですが。
―土屋 でも認識するってそれ大事ですね。勉強を始めた頃って、問題で何を聞かれてるのかすら分からないから苦労するんですよね
。
佐波 それですね。それで5回目に問題が認識できて解けるようになり、6回目にはほぼ満点が取れたんです。
―土屋 すごいですよ。じゃあ、そのto不定詞とing形を見分ける問題は完璧?
佐波 それが、そうでもないんです。もう覚えたと油断して、入試直前にもう一度復習がてら解いたら、半分くらい忘れていました。
―土屋 覚える、忘れるその繰り返しですね。
佐波 そう、終わりがないんですよね。今回動詞の話を例に話しましたけれど私が一番教訓を得たのは、人間は忘れてしまう生き物なんだということです。真剣に勉強したり暗記したことを忘れたら、誰でも大きなショックを受けますよね。自分は暗記力がないのではないかと打ちひしがれていまいます。特に社会人の方はまとまった勉強時間が取れることも少なく、毎日仕事や沢山のことで頭を使うので現役生の高校生に比べたら暗記は困難かもしれません。
―大概、それであきらめてしまう人が多いです。
佐波 私は、途中から「人間は忘れるものだ」と開き直ることにしました。すると意外にも落ち込まなくなったんです。思い出せない辛さで心が倒れても、また起き上がりこぶしみたいに立って「よし、また覚え直すぞ」と淡々と覚え直せたんです。勉強を始めた頃は「絶対に忘れてはならない。一回で全て覚えよう」と意気込んでいたので、忘れたショックが大きかった。でも何度も忘れるということを経験して「どうせ忘れるんだから、何回もやればいいや」と肩の力を抜いて臨んだ頃から、かえって勉強に取り組みやすくなりました。
―土屋 勉強は繰り返しだと思いますが、佐波さんはそれを実践しました。でも、分っていても大変ですよね。根気が続かない。あきらめてしまう。
佐波 こうして試験の直前まで思い出しては忘れ、暗記しては忘れ、また覚えるという作業をひたすら繰り返しました。楽器やスポーツもそうですよね。たった一回だけ全身全霊の力を込めて練習したって上手くならない。「何度もやって初めて覚えられるんだ」と前もって心構えをしておけば、忘れた時のストレスを最小限に明日も頑張ろうと勉強を前向きに続けられると思います。
―土屋 確かにそうです。特に学校を出てからの勉強は覚えられない(笑)。どれだけ反復できるかです。反復すると意味が分かって来て、更に覚えた単語の連携性が分かる。
僕は心理学の資格とか、今は仏教の勉強をしていますが、どれだけ根気よく続けられるか…佐波さんの言う通りです。
思うのですが、勉強は99%の努力です。まれに理解が速い人がいますが、それは例外。僕はそう思っています。
次回、佐波さんには引き続き効果的な勉強方法の体験談をお聞きします。是非参考にしていただいて、「さあ、勉強しましょう」です。
ある人が、「これからの愛国は‘勉強することだ‘」と言っていました。学問報国です。大切なことだと思います。有意義なお話有難うございました。
佐波 有難うございました。