pet「マリの喫茶室」
うさぎシリーズ(1)「天使が家にやってきた」
うさぎシリーズ(1)「天使が家にやってきた」
子供も大きくなって、小さな家族が欲しくなった。そこで思いついたのが「うさぎ」。
何しろ、「鳴かない、散歩いらない、臭くない」という飼いやすさが気に入った。
さっそく、ウサギ専門のペットショップを回った。たまたま二軒目に、生まれて1か月半の子ウサギがいた。子ウサギは、ネザーランドドワーフという種類の血統ウサギだった。ネザーランドドワーフはペット用につくられたとても小さいうさぎで、〔ピーターラビットのモデル〕と言われている。
子ウサギはふわふわしてとてもかわいかった。瞳は大きく愛らしい。羽をつければ天使になると思う。子うさぎに跳ね狭いケージの中を元気に走りまわっていた。そばでお母さんうさぎが丸くなっていた。2か月たたないと母ウサギから離さない。だからその日に契約をしたが、引き取りは2週間後だ。
早速帰りに本屋で「幸せうさぎの育て方」という本を見つけ購入した。「幸せうさぎ」という言葉が気に入ったからだ。新しい家族として迎える我が家の天使を、必ず「幸せウサギ」として一生を終えさせようと決心した。
なぜ、「幸せウサギ」にしようと決心したのか
それには訳がある。
私が子どもの頃、父が知り合いの農場からまるまるとした白いウサギをもらってきた。因幡の白ウサギみたいな大きなウサギである、「まるまるしたウサギ」なので、ラビットをもじってマリットと名付けた。当時は父の転勤で地方の昔の武家屋敷に住んでいたので、平屋で庭がとても広かった。
自由で気ままに暮らしていたマリットだったが、その年の秋、父が転勤になり東京に戻ってきた。東京では、3DKの団地暮らし。マリットは広い庭から一転して狭いベランダ暮らしになってしまった。そしてその年の冬、悲劇がおきた。
あの日はとても寒い冬の朝だった。突然、母親が叫んだ。「マリットが死んでる!」慌ててベランダに行くと、そこには無残なマリットの姿があった。段ボールで作った簡易なおうちに入ろうとして、首が穴にひっかかったまま、マリットが凍死していたのだ。魂が抜けた身体は、固くなり、全く動かなかった。身近な死を見たのは初めてだったので、幼い私は相当ショックを受けた。昨日まではあんなに元気で走り回っていたマリットがわずか1歳で突然死んでしまったのだ。
声が出せないウサギは、夜中、頭が穴にひっかかったまま、助けを求めることもできず、どんなにもがいただろう、苦しかったろう、怖かったろうと思うと今でも涙が出る。
こうしてマリットは1歳という短い一生を終え、私は母と姉とともに、近所の梅林に土を掘りマリットを泣きながら埋めた。
このことがトラウマになり、ずっとペットは飼えないでいたが、大人になって初めて、実に40年ぶりに再びウサギを飼うことになった。今度こそ、〔マリットの分まで幸せにしよう〕と決心した。