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ロシアがウクライナ侵略。直後に日本が国政選挙  鳥居徹夫(元文部科学大臣秘書官)

参議院選挙の投票日の2日前(7月8日)、遊説中の安倍晋三元首相が、狙撃され殺害された。

残虐な言葉で大衆を扇動したプロパガンダも犯罪誘発の要因となる。

デモの中で「お前ら人間じゃない、叩き斬ってやる」などと絶叫した山口二郎(法政大学教授)など進歩的文化人の責任は重い。

また「安倍の葬式はうちが出す」と言ったのが朝日新聞である。

安倍晋三への事実を捻じ曲げた罵詈雑言が、一部野党や政治家にみられた。

ナチスは、大量のユダヤ人を殺戮(さつりく)することを「殺戮」とは呼ばず「最終的解決」と呼んだ。

いまプーチンは、ロシアの暴虐に抵抗するウクライナの人たちや、その指導者に向かって、「ネオナチ」と悪罵、抹殺されるべき対象として扇動している。これらは、まさに暴言のデパートであり総合商社と言える。

これらテロ誘発歓迎とも言える発言については、マスコミは取り上げなし非難もしない。

それどころか数々の国際テロ事件を起こした日本赤軍の重信房子が刑期を終え出所したときは、支援者が歓迎したという記事を載せるなど、テロリストに好意的な報道も目立つ。

 

◆核保有国ロシアのウクライナ侵略の直後の国政選挙

第26回参議院選挙は、6月22日に公示され、7月10日に投開票が行われた。

公示日の6月22日は、2月24日にウクライナに、ロシアが武力侵略して約4カ月後であり、投開票日の7月10日はその4カ月半後にあたる。

核保有の国連常任理事国のロシアが、核を持たない国連加盟国を軍事侵略した。ウクライナが憤然と対抗した。

ウクライナは独立国家であって、ロシアの属国ではない。ましてやロシアの衛星国ではないし、朝貢国ではない。

言うまでもなく、武力による領土変更は国連憲章違反である。国の防衛や安全保障、憲法などの現実問題が、ロシアの侵略行為や一般市民の虐殺などのニュース映像が、電波を通して「お茶の間」に流され、これまで国会議員や専門家の一部の議論であったテーマが、国民全体の関心事になった。

この国民意識の変化が、日本の各政党に与えた影響は大きかった。たとえば3年前まで「護憲集会」に出席し「9条を守れ」と挨拶した国民民主党の玉木雄一郎代表は、今年は「憲法改正の集会」で挨拶していたのである。

 

◆自民党「1人区」で28勝4敗。立憲民主党と共産党との共闘に拒否感。

参議院の定数は248議席、半数の124議席(選挙区74、比例50)と非改選欠員の1議席(選挙区)、計125議席の審判となった。

自民党は、改選議席(124議席)の過半数の63議席も確保し、公明党とあわせ与党全体で、参議院全体(248議席)の過半数125議席を大きく上回った。

自民・公明・維新の会・国民民主党の「改憲勢力4党」は、憲法改正の発議に必要な3分の2(166議席)を越え177議席となった。

全国で32ある改選数1の「1人区」で、自民党は28勝4敗にとどまった。

一人区で自民党は、前回2019年は22勝10敗、前々回2016年は21勝11敗で、一本化の野党に苦戦した。

共産党は2016年と2019年は、「平和・安全法制反対」や「アベ政治を許さない」などの、「この指とまれ」方式で、立憲民主党や民進党(当時)などを巻き込んだが、実態は共産党候補者の取り下げであった。

過去2回の参議院選挙は、候補者調整の重視で共産党との対立はなかった。

つまり政策ではなく、政局にらみの候補一本化であり、政権政策ではなかった。「反アベ」の裾野の広がりを求め、その貯水池として民進党や立憲民主党を巻き込んでいた。

昨年の総選挙で、一部野党は政権政策を合意したが、有権者からは「立憲共産党」と揶揄され、立憲民主党と共産党は議席数を減らした。

共産党が立民との共闘にこだわったが、立民の多くの陣営が、共産党が前面に出るのを嫌ったからである。

共産党との共闘について、泉健太代表は「白紙にする」と表明したことで、共産党が独自候補を擁立させ、立憲民主党を揺さぶった。

実際、共産候補の取り下げは、現職改選の選挙区など12選挙区と激減した。

そもそも野党共闘とは、共産党と周辺野党の壁を低くすることであり、周辺野党の支持層に共産党が食い込める戦略とされている。

しかも昨年の総選挙では、多くの選挙区で候補者調整が行われていた。

 

◆自民勝利、立民敗北、共産惨敗の参議院選挙

自民党の改選議席は55議席であったが63議席を獲得。改選125議席の過半数を単独で越えた。

あるアンケートでは「岸田文雄首相を評価する」が過半数を超えたが、岸田首相の実情はブレブレで、何も決められなかった。節電ポイント付与などは与野党の総批判を浴びた。その評価は、選挙中に凶弾に倒れた安倍元首相のイメージと重なったことが大きかった。

安倍元首相の狙撃事件は、現職の総理大臣が暗殺されたような衝撃を与えた。諸外国では哀悼の誠を捧げ反旗を掲げ、国連安保理では黙祷が行われた。日本でも、多くの人が衝撃の現場に献花を捧げ、数百㍍の行列ができた。

自民党は、選挙区では圧勝で落選者は4名だった。ところが比例では18議席にとどまり前回3年前の19議席を下回った。

 エネルギー政策や電気料金の高騰、景気政策など、経済無策に失望が走ったとみられ、いわゆる自民党の岩盤支持層が失望した。

株価も、前首相の菅義偉の時には3万円を超えていたが、岸田首相が就任してから2万6千円台まで下がっている。

 比例で自民支持層の票の一部は、維新の党や国民民主党、さらには新興の参政党に流れたようである。

昨年10月の総選挙では、維新と公明は選挙協力を行い、大阪の自民党は小選挙区で全敗となった。自民党候補を推薦した公明党が維新へ票を回し、辻元清美らを落選させた。

参議院選挙では、維新の党候補者に公明党が票を回すのではないかと、自民党は警戒していた。終盤で安倍元首相が応援演説に入った岡山、奈良、京都、福井などで、公明票の動向と維新候補の追い上げが新聞紙面をにぎわせた。

 

◆立憲民主党は東京で苦戦、神奈川、千葉、埼玉、京都などで最下位当選。

立憲民主党は、各地で維新や共産党の追撃を振り切り、惨敗は免れたものの大敗であった。

立憲民主党は、選挙区で6議席減だが、比例では改選議席数を維持した。

立憲民主党票を自民・共産・れいわで食い合う構図となったが、複数区では逃げ切った。

立憲民主党は東京で苦戦、終盤では、立民支持層が草刈り場とされたが、埼玉、神奈川、千葉などでは、共産党を振り切り立憲民主党が最下位で当選した。京都も国民民主党の推薦を受けた維新候補とデッドヒートを展開したが逃げ切った。

立憲民主党は、一人区ではふるわず、森ゆうこなど現職3候補が落選した。

比例の当選は7名で。連合組織内の5候補と私鉄総連(連合加盟) の準組織内候補の辻元清美、それに小沢一郎と行動を共にしてきた青木愛が当選したが、白真勲、有田芳生が落選した。

共産党は、立憲民主党の支持層を奪い取る戦略に転換したと思われた。ところが、共産党の支持層が高齢化と、そのパワー低下は否めなかった。

実際、共産党は比例で得票が減退し議席減となった。選挙区でも3年前に奪った京都、埼玉で議席に届かなかった。

維新の党は、昨年の総選挙の追い風を比例は受けたが、選挙区は大阪、兵庫のほか、任期途中で辞任した神奈川の確保にとどまった。

 愛知や、神奈川を除く首都圏では、議席に届かなかった。

 比例区に知名度のあるタレントなど多くの候補を擁立し、東京などの重点選挙区に運動を集中させたが、当選にはつながらなかった。

公明党は比例で700万票を大幅に割込み、618万票で1議席減らした。選挙区で7名当選したが、集票力に陰りが見えた。

国民民主党は、公示後に選挙公約に「電気料金の再エネ賦課金の停止」を訴えたが浸透せず、議席減となった。

 

◆盛り上がりに欠けたが、投票率は盛り返し

 岸田首相(自民党総裁)は、演説に抑揚がなく「決断と実行」と棒読みで述べている。マスコミも視聴率が取れず、雑誌も売れない。何を言ったか行ったかが報じられないし、批判も受けない。

岸田首相は、参議院選挙公示日の6月22日から3日間活動し、早々とG7先進国首脳会議に出発。2022年のG7サミットは、ドイツのドイツ・エルマウで開かれた。その足でスペインのマドリードで行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に参加し6月30日に帰国した。

つまり18日間の選挙戦のうち、ほぼ5日間の日本不在。人気のない岸田首相は全国行脚を減らし、投票日を迎えた。

一方、立憲民主党の泉健太代表は、第一声に青森で行った。首都圏など大都会ではなかった。

泉代表は、候補者から来てくれと言われない。党首でありながらもお呼びでなく、立憲民主党の応援弁士は枝野幸男、菅直人などが目立ったという。

かつて1988(昭和63)年の参議院選挙で、どこからもお呼びがかからず大惨敗した宇野宗佑の自民党に似ている。

つまり、岸田首相や立憲民主党の泉代表の演説はパンチがなく、国民を引きつけるものがなく、安全保障や憲法改正、さらにはエネルギー政策を訴えない。

選挙戦は低調に見え、投票率も3年前と同様50%を切るとの予想も強かった。心配された投票率52.05%で、前回3年前の48.80%を3.25%上回った。

 

◆日本は狙われている。盛りあがらなかった安全保障論議 

ロシアによるウクライナへの武力侵略は、太平の夢をむさぼり「憲法9条」を絶叫する左翼勢力や心情的左派を痛撃したように見えた。

しかし、今回の選挙では左派勢力も自己弁護に終始し安全保障論議が盛り上がらなかった。

日本の周囲には、核保有国で日本を恫喝する国が、ロシア、共産中国、北朝鮮と3カ国も存在する。

戸締りをしない家が強盗に狙われると同様、「国を守る意思」のない警戒心のない国民は、大陸の騎馬民族の国家の標的とされるのである。

騎馬民族が牙をむくのを防止しているのが、集団的自衛権の限定的行使を表明した日米同盟なのである。

かつてノーベル平和賞を受賞したヘンリー・キッシンジャー博士は、その著『ホワイトハウス・イヤーズ』(邦訳で『キッシンジャー秘録』全5巻、小学館刊)で、このように喝破した。

「弱ければ必ず侵略を誘い、無力であれば、結局は自国の政策を放棄させられる」

「力がなければ、もっと崇高な目的でさえ、他国の独善行為によって、押しつぶされてしまう危険があることは、事実なのである」

「外交技術というものは、軍事力を補強することができても、軍事力の身代わりをつとめることは決してできなかった」

「実際には、力の均衡こそが、平和の前提条件をなしていたのである」とも指摘した。(いずれも『キッシンジャー秘録』第1巻257ページ)

外交に正義や道理は、全く無力です。パワー・軍事力なしでは相手から譲歩を引き出せない。

「歴史を通じて、国家の政治的影響力の大小は、およそ、その国の軍事力の程度に比例してきた」(同著)との指摘は鋭い。

言うまでもなく、クラウゼヴィッツの言葉を借りるまでもなく、外交とは血を流さない戦争でもある。

あの中国贔屓とされるキッシンジャー博士すら、冷徹なる国際政治への現実を直視していた。

日本は狙われている。このことを国民も政治家も、ウクライナの悲劇を教訓とし、防衛力の強化と憲法改正を躊躇すべきではない。(敬称略)