minsha 「とおる雑言」

【徹雑言】 樋口陸軍中将の再評価を 寺井徹(母子福祉協会監事)

ウクライナ戦争が起こって、もう一度評価してほしいのは樋口季一郎陸軍中将である。同氏は関東軍の特務機関長。「杉原千畝の前にユダヤ人をナチスから救った温情の軍人」として有名(早川隆著『指揮官の決断』文春文庫)。だが、私が知ってほしいのは南樺太戦争のこと。

ソ連は一九四五年八月九日、不可侵条約を破って日本勢力圏に侵略してきた。北部軍司令官だった樋口は、南樺太や千島列島など北方領土の死守を決意。断乎反撃を命じる。ロシアは、北海道を占領する意思を持って南下してきている、と分析していたからで、事実、スターリンは、留萌から釧路を結ぶ北海道北半分の占有を、トルーマン米大統領に要求していた。不凍港(留萌港と釧路港)と、炭鉱(羽幌炭鉱と釧路太平洋炭鉱)をとりたかったのだ。

樺太では各家庭から「十五歳から六十四歳までの男性は軍隊または国民義勇戦闘隊員として動員され」勇敢に戦った(藤村建雄著『証言・南樺太最後の十七日間』光人社NF文庫)。八月九日から八月二十六日まで、日ソ両国の戦闘が続いたのである。

停戦交渉に出向いた軍使も銃殺され、豊原駅前では北部から避難してきた住民が機銃掃射を受けた。略奪・暴行・凌辱と辱めを受けた人も多い。真岡郵便局では、九人の乙女が青酸カリ自決を図っている。

しかし、戦い抜いたことによって北海道を守ることができた。お孫さんの樋口隆一明学大名誉教授による『陸軍中将 樋口季一郎の遺訓』勉誠出版)も読んでいただきたい。