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【論説】サンプラザ解体、釈然としない中野新区長の変節
中野サンプラザは中野区の象徴である。
新宿副都心や渋谷再開発の超高層ビル群に比べれば、さほど高いとは言えない高層ビルだが、都内各地の展望台から、その異形を確認することができる。三角定規を組み合わせたような独特のフォルムは、中野駅前のランドマークとして長年親しまれ、通りを隔てた中野ブロードウェイと共に、オタクの聖地でもある。アイドルのコンサート会場や結婚式場、ボウリングなどの遊興施設を備え、1980年代には都内を代表する建物のひとつだった。
1982年に結成されたロックバンド、爆風スランプのボーカル・サンプラザ中野くん氏が、建物名を芸名に用いたのも、知名度の高い中野サンプラザでのパフォーマンスが評価されたことに因んだものだ。
そんな中野サンプラザも1973年の開業から45年が経過し、老朽化による解体計画が進んでいた。6月の区長選で、田中大輔・前区長(66)=自民、維新推薦=が、「1万人規模のアリーナを整備する建て替え(解体)」案を提示したのに対し、当選した酒井直人区長(46)=立民、国民、自由、社民推薦=は「サンプラザの今後は、区民自ら考えるプロセスが必要」と主張し、解体よりも改修にスタンスを置いた態度を示して当選した。
「今後の話し合い」「区民の意思を尊重する」といったリベラル特有の、方針を明示しない戦略で、賛否両派からの支持を集めたのである。ところが、9月11日の区議会で酒井氏は「私個人の考え」と言及した上で「建て替え(解体)による再整備に向けて検討を進める」と表明した。酒井氏が主張してきた区民参加の検討プロセスは現在、区民や専門家で構成するタウンミーティングが月に1回程度、開催されている。
区長選の時には自身の意見を表明しなかったのに、当選してから自分の考えを明言するというのは、有権者に対して真摯な態度とは言えない。戦略上は政権奪取に成功したかもしれないが、「残してほしい」と願う有権者の多くが、解体を明言していた現職ではなく、酒井氏に投票したはずである。
私(記者)も14歳まで中野区で過ごした元区民として、区のシンボルが解体されるのは心苦しいが、1981年の新耐震基準前の建物であるという安全性の不安、隣接する区役所や駅前再整備と合わせた一体開発など利便性、財政面からの事情……などからも、今回の決断は正しいとは思う。
だが、サンプラザを愛する区民の琴線に訴えておきながら、最終的には計画通りに進めるという政治姿勢はいかがなものだろうか。「私には辺野古移設以外の腹案がある」と言って政権奪取しながら実現可能な腹案が一つもなかった鳩山由紀夫・元民主党代表と同じような手口である。
中野区は長妻昭・立憲民主党代表代行の支持が強い地盤で、選挙戦では同党幹部がこぞって応援に駆け付けた。有権者を口約束で篭絡し、「当選すれば何でもあり」という民主党の卑劣な政治手法が、姿かたちを変えて自治体にもしぶとく生き残っている。