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【論説】怒りと恐怖を世界に拡散するトランプ大統領

トランプ大統領とマイク・ペンス副大統領(左)

 
昨年1月の米大統領就任後、新聞紙面に載らない日はないトランプ氏。どう好意的に見ても計算されているとは思えない怒りの表情で演説する姿は、世界で最も理性が求められる権力者に相応しい人物には見えない。
 
トランプ氏はいつも感情に支配されている。今年1月に発売された政権内幕本のタイトルも『炎と怒り トランプ政権の内幕』、今回発売される暴露本も『恐怖:ホワイトハウスのトランプ』と、同氏を怒りと恐怖で代弁している。
 
怒りや恐怖は、ネガティブな感情である。前者は自らの悪意、後者は他者からの悪意を感じることで生じるものである。米国は善悪二元論で物事を判断するのが好きな国である。米国の価値観を体現した名作『スターウォーズ』では、悪の側に引きずり込まれたジェダイの騎士はダークサイドに堕ちたと表現される。スピンオフを含めて多くのシリーズがあるが、全作品を通して訴えていることは、特殊なフォースの力を持つジェダイが、ダークサイドに立つかライトサイドに立つかで世界の運命が明暗入れ替わるということだ。
 
翻って現代世界。国際社会はいま、トランプ氏の思い込み一つで戦後世界の秩序がグラグラと揺さぶられている。保護貿易重視やG7の軽視、環境や難民問題への無理解、アサド・シリア大統領に暗殺命令を出したり、カナダとの貿易交渉では一方的な要求を突きつけて一切の妥協を許さなかったり、故ジョン・マケイン上院議員の葬儀に合わせてゴルフを楽しんだり……。
 
あらゆる怒りや恐怖は、「こうあってほしい」という欲望から生じる。“Make America Great Again”と叫び、地位や名誉、実利、復讐心に貪欲な彼が、怒りや恐怖から解放される日がくるとは思えない。世界全体が私利私欲に引きずり込まれ、ダークサイドに堕ちつつある。トランプ氏を残りの2年、再選すれば6年間も大統領に留めるか、民主党が議会過半数に達して弾劾裁判へと導き、副大統領に禅譲する道が切り拓かれるか、11月の中間選挙では米国人自身の良心が問われる。