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【論説】西日本豪雨、誤解を招く被災者数の報じ方
7月5日から始まった西日本豪雨で、死者数は日々増え続け、7月15日現在、210人を超えている。これだけの大災害でありながら、民放の東京キー局では報道特番は組まれず、SNSでは「所詮西日本の被害なんて興味ないんだろ」「関東以外は外国だと思ってるのか」など、報道姿勢に疑問の声が上がっている。
豪雨の危険性は5日14時過ぎ、気象庁が「数十年に一度の重大な災害として警戒を呼びかける大雨特別警報を発令する可能性もある」として、早い段階から注意を呼びかけ、NHKや民放のニュースでも繰り返し災害の備えを呼び掛けていた。
甚大な被害が出ている岡山県や広島県の山間地域に住む人々の中にはニュースを聞いて早い段階から備えていた世帯もあると思われる。一方、安倍首相は5日夜に自民党議員の懇親会に出席し、宴席での歓談を西村康稔官房副長官がツイッターに投稿。その中の記念写真は新聞やテレビなどで何度も取り上げられ、「災害対応を怠った」と糾弾されている。
気象庁の注意喚起に対し、なぜ官邸は動きが鈍かったのか。おそらくは複数の原因があると考えられる。
安倍首相個人の事情を考えると、7月11日から1週間に及ぶ欧州・中東歴訪の準備や22日閉会が迫る国会対策に忙殺されていたこと、9月に行われる自民党総裁選のため出国前に党内基盤を固めておきたかったことなど、日程が元々詰まっていたことが考えられる。
とはいえ、通算5年以上も在職している安倍首相が、災害対応の大切さを忘れているとは考えられない。長期政権で多少なりとも慢心があることは、首相をはじめ政府与党内にも散見されるが、台風や地震と異なり、豪雨だけで100人単位の犠牲者が出るとは想像していなかったのではないだろうか。
実際、5日夜までの報道では、死者2人、行方不明1人のみだった。その時点で判明していない被災者や、降り続く豪雨の影響でその後に犠牲となる人の数は、時間とともに激増していった。報道機関がリアルタイムで死者・行方不明者数を報じることは当然なのだが、“行方不明”という言葉は、その数が確定値だと思ってしまう言葉の特徴がある。行方不明か否かも定かでない人まで、行方不明だとカウントされているように聞こえるからだ。
被害状況を伝える際に、「現時点での不明者数は〇人だが、現地の状況は十分に把握できておらず、この先、数十人数百人と増えていく可能性が高い」と、あくまで流動的な数字であることをきちんと伝えないと、受け手をミスリードする危険性が高いのではないだろうか。