shohyo「書評」
書評 「難民問題」 墓田桂著 中公新書 評論家 三浦小太郎
難民問題について、最も現実的かつ中立の立場で書かれた良書である。ここで中立というのは、単に様々な立場の異なる意見を公平に取り上げているという意味ではない。難民を人道的に保護すべきだという理念、国家の秩序と安全保障の面からの難民の危険性、日本における難民受け入れの現状など、理想と現実の間で引き裂かれる様々な矛盾を直視し、綺麗ごとの理念にも、また悲惨な現実にも目を背けない著者の誠実な姿勢のことである。
2015年3月、3歳のシリア人(クルド系)、アラン・クルディ君の遺体がトルコの海岸に流れ着いたところから本書の記述は始まる。この少年は、ISの恐怖から逃れるために、シリアからトルコに移り、かつ、そこでの生活にも限界を感じ、第三国ギリシャへの亡命を試みていた一家の子供だった。この少年の悲劇を悼まない人はいないだろう。しかし同時に、この一家を乗せた船は密航船でもあった。中東の混迷、難民の大領流出、彼らを運ぶ密航船とブローカー、そして海難事故。クルディ君個人には何の責任もない。しかし、この少年は、まさに難民問題の矛盾の象徴でもあった。
この少年の事件後、EU諸国が難民保護に動いたのは、確かに善意と良心に基づくものだったろう。しかしその後の現実は、その理念を大きく揺るがすものとなった。
本書が的確に指摘しているのは、EU、特にドイツが難民受け入れに動いたのち、「混合移動」という、難民と移民が混然一体となった人の移動が行われたことである。「難民性の高いものに交じって稼働目的で移動する者も少なくない。また、トルコで迫害を受けているわけでもないのにこの国を離れ、EUにわたるシリアの人々がいる。その人たちはEUに渡る時点で『移民性』を強くする。つまり、同一人物で移民性と難民性を併せ持つ」(本書)さらには、内戦状態が続くシリアからの難民は受け入れられる可能性が高いため、シリア出身と偽るものすらいる(偽造パスポートまで作られている。本書によれば、ドイツにおいてシリア難民と名乗ったもののうち3割が偽装だったという数字も紹介されている)。
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